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低位株と値がさ株、選ぶならどっち?― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「初期の裁定取引」

裁定買い残と売り残が逆転したのは2016年9月。
買い残3,385億円、売り残4,822億円。
水準は低いものの間違いなく逆転でした。
裁定取引に先高感がないか、金利がゼロだったからこうなったのでしょう。
しかし、結果論的には2016年11月の1日だけのトランプ暴落を経て、株価は上昇しました。
敢えて考えれば、裁定売り残が裁定買い残を上回っていたことが、株価反転の遠因だったのかも知れません。
そもそも、この裁定取引というものは日経225先物が上場した1988年9月以降にデビュー。
あれからほぼ30年が経過したことになります。
裁定取引は同じ原資産の割高な方を売り割安な方を買ってサヤを稼ぐ取引。
先物売りの現物買い、現物売の先物買いといった取引ですから、当然現物のバスケットでの取引がともなうことになります。
簡単にいえば「日経225先物売りと日経平均採用銘柄1,000株ずつ買い」あるいはその逆の取引が同時に行われることになります。
今では瞬時の取引など当たり前にできますが、裁定取引の誕生当時はまだ立会場があって、人が介在する仕組み。
どのような状況かというと、場立ちの人たちが伝票をたくさん持って立会場を駆け回りました。
駆け回るのですから、瞬時ではありませんが、それでも裁定取引といっていました。
証券会社などの株価の電光掲示板を見ていると、左の上から右の下へ向かって株価の点滅はピカピカと続くものでした。
それを見て、「あ、裁定が入った」なんて言っているような悠長な時代だったのです。
225銘柄の注文約定をいちいち手入力していたのですからそれこそ牧歌的な世界でした。

私がエクイティのトレーダーをしていた90年台後半。
私はある信託銀行さんを担当していました。
11時の前場が引けて来た注文が「25銘柄のバスケット売り。全体で前引け値の1%下」。
今では簡単なことですが、条件は「コンピューターのバスケット取引ではでなくて手作業でお願いします」。
「え?」と聞き返したほどの注文でしたが、後場寄り指値で15銘柄程度が1%下までで約定。
残るは10銘柄のウリとなりましたが、商いが薄いから前場から未約定になった銘柄ばかり。
結局、残りの10銘柄を売り切ったのが14時半。
ランチも抜いて3時間半の苦闘の末の結果でした。
今となっては笑い話でしかありませんね。
こういう世界に今まで身をおいていたと仮定するとHFT(High-frequency trading:超高速取引)などのありがたさは身にしみることでしょう。

「低位株と値がさ株」

会社の大先輩である浦上邦雄氏の「相場サイクルの見分け方」(日経出版)の復刻版を読んでいて気がつかされたこと。
「低位株は低位株以下にはならない。
いずれ中位株か値がさ株になる可能性は否定できない。
値がさ株は中位株や低位株に転落する可能性がある」。
これは真理だと思いました。
低位株といえば2ケタ~100円程度の株価。
それがバブルのピーク時には860円程度まで上昇したのが歴史でした。
低位株や値がさ株の定義というのが結構興味深いものです。
その昔の日興リサーチセンターの定義を見てみると・・・。
1970年は350円以上が値がさ、75円未満が低位。
1980年には700円以上が値がさ、175円以下が低位。
1986年には1,000円以上が値がさ、300円以下が低位。
これが1年ごとに1987年値がさ1,400円、低位400円。
1988年値がさ1,600円、低位500円。
1989年値がさ1,900円、低位860円。
この強烈な変化がバブル時代。
この低位860円を見れば1,000円以下の株がなくなるといわれたのもうなづけます。
現在ではどうでしょう。
値がさ1万円以上、低位200円以下みたいな感覚でしょうか。
いつの時代も2ケタや100円台の銘柄には時折集中的に買い物が集まることがあります。
つまり、低位株の底上げ期待というのは相当大きいようです。
一方で値がさ株。
最近では超値がさ株まで出てきました。
「買いにくい相場ほど上がる」という格言がありますが、1単位数百万円となるとなかなか手が出ないもの。
でもそういう銘柄に限って長期上昇基調を継続しがちなもの。
低位で頑張るか、度胸を出して値がさ株に手を出すかは結構難しい課題です。
結論は「低位もいつかは値がさ株になる可能性を秘めている」でしょうか。
あるいは「上がった銘柄を追いかけたがるのが市場関係者。
上がっていない銘柄を見つけたがるのが投資家さん」。
高ROE(Return On Equity:自己資本利益率)銘柄が買われているときにはROEがテーマ。
でもある時点から、テーマは低PBR(Price Book-Value Ratio:株価純資産倍率)に移行し、高ROE銘柄売りと低PBR銘柄買いの構図。
では、低PBR系を事前に仕込めば良いではないかというのが理想論。
その投資姿勢で待ち続けることが可能なのかどうかは結構難しいことです。
どんなに好業績に変化し、どんなに先行き明るい銘柄でも市場人気が集まるまでの我慢は並大抵ではありません。
そして動かない銘柄を持っていることの嘆き。
いずれこちらの方が良くなるという信念も激しい値動きの銘柄を見ると揺らぎ勝ちなもの。
辛抱と我慢ができれば良いのでしょうが、投資家さんは常に主人公でいたいものというのも普遍の真理でしょう。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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