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七夕・・・・。― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「七夕」

七夕になると必ず甦る記憶は平成7年(1995年)7月7日(金)の動き。
寄り付きの日経平均株価は15,309円。
高値16,389円で大引けは16,213円。
前日比956円高の大暴騰でした。
同年4月に歴史的な円高水準を付けてからの巻き戻しと言ってしまえば結果論。
7月3日(水)に14,485円で底打ちした株価は、その後、96年6月26日の22,666円までほぼ1年の間一気に上昇しました。
たまたまのきっかけは、ある大手証券会社の創業77周年記念の大商い。
今はもうなき言葉ですが、ご祝儀を含めてツケウメツケ(信用の買い→売り→買い)が乱舞しました。
当然ながら最初はせせら笑っていた傍観していた他の証券会社も次第に争うように参加。
結局ほぼ1,000円高となりました。
相場がそこで単発的なものであったなら「アナクロニズム的愚行」という歴史の1コマ。
しかし、その後1年の上昇の端緒になったという点では愚行も時には善行になることがあったようです。
この大手証券会社は相場巧者が創業した会社でしたが、今思えば株について大手証券としてはなかなかの相場観があったような気がします。
単なるお祭りだったのかも知れませんし、他社にしてみれば「何アレ?」という感じだったでしょう。
しかし、当時はまだ求められていた旗振り役としての証券会社のケジメはキッチリとしていたようです。
当時、その証券会社の新宿支店の営業課長をしていましたが、とにかく朝から即転玉が続出。
うなだれて「株なんて売り買いしても仕方がない」というモードだった平成入社の社員も瞠目(どうもく)して電話に飛びついた光景が甦ってきます。
今でも相場の節目に演出された「七夕の日の七七営業」として語り草の出来事です。
もっとも、96年の七夕は大曲がりで97年の金融破たん相場につながり、98年10月の12,873円まで刻苦(こっく)したのも歴史。
そして2000年4月ITバブルの20,833円につながったのも歴史。
歴史の中に埋没してしまいましたが、その時間軸で戦っていたこともまた現実でした。
トレーディングルームのトレーダーが、シカゴ・ブルズのおそろいのネクタイを締めていたもの今となってはご愛嬌でした。

そこから遡ること3年前の1992年の秋、ニューヨークのマンハッタン。
エンパイアステートビルの見えるコンドミニアムで、一人の債券トレーダーと一人の不動産ファンド組成者と酒を飲んだことがあります。
債券トレーダーは「もうアメリカ市場はダメだ。年末には首だ。いつまでエンパイアビルを眺めていられることか・・・」といって飼っていたブルドッグをなでていました。
不動産ファンド組成者は「ジャパンマネーには勝てない。ウォール街などをどんどん買収している」。
二人の意見が一致していたのは「アメリカはダメだ。絶望的だ」ということ。
そして、ちょうど行われていた大統領選挙で民主党のクリントン候補が当選すれば、アメリカは変るかもしれないという見方でした。
現職大統領のブッシュ氏はイラク戦争で疲弊。
アメリカ政府は貿易赤字と財政赤字で苦しむ一方で、銃や麻薬の蔓延で社会はボロボロになっていました。
唯一アメリカ人でなかっただけにひそかに考えたことは「アメリカはまだ希望の持てる状態にない」。
ところがクリントン政治はアメリカを見事に復活させました。
ヤフーやグーグルなど新興企業群を成長させ、インターネットを用いて世界をITバブルへと導いたのです。
クリントンは魔術を使った訳ではありません。新たなバブルを惹起しただけのこと。
それはIT分野だけではなく、金融の部分ではウォール街を足がかりにしてファンドバブルを起こしたともいえるでしょう。
今は我が世の春みたいなヘッジファンドや投資ファンドなどはそのいい例でしょう。
実際に、バブル崩壊で疲弊した日本の金融界にアメリカの投資ファンドが舞い降りたことは記憶に残っていることです。
振り返ってみれば実はアメリカは終わったのではなく始まったのでした。
陰の極では絶望的になるというのはああいうこと。
「相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」。
有名なテンプルトンの言葉がストンと腹に落ちたような気がします。

海外投資家の株式保有比率。
1989年4.2%→2017年30.1%。
海外投資家の売買シェア。
1989年12.1%→2017年69.3%。
いずれも大きな伸びです。
7割の売買シェアを持つ投資家が3割の株しか持っていないというのも現実。
ココが東京市場の弱さの一因でしょう。
そして、これらを助長・支援したのが「金融ビッグバン・アローヘッド・ヘッジファンド」。
時価会計も四半期決算も同様。
しかし、「空洞化感」は拭えないのも現実。
「ヘッジファンドを巻き込んだ外資系証券はアルゴリズムを導入。
そして、個人顧客の注文はボイスから電子になり、証券業は装置産業化した」。
これが歴史です。
新しい時代は、新たな姿の市場が必要でしょう。
「市場と企業の活性化に日本のマネーを日本の運用者が動かす姿が不可欠」。
これは理想の道。
しかし・・・。
「欲望」を素直に表現する海外勢と「欲望を学問に転嫁」する東京との差は歴然。
1992年にあれほど打ちのめされていたウォール街なんて浦島太郎の物語に映ります。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い

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