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脳科学者中野信子が語る! 第1回 お金と脳の関係(後編)

脳科学の見地で、お金に対して「積極型」の人と「消極型」の人がいることがわかってきました。気鋭の脳科学者・中野信子先生に脳とお金の関係について教えていただくシリーズの後編では、そうした脳の特徴はどうして生まれたのか、自分の脳の特徴にあった「お金持ち脳」を育てるにはどうしたらいいのかをうかがいました。

日本人が貯蓄を好むのは、脳の遺伝的要素からくる行動だった!?

──前編でうかがった脳の特徴は、生まれつき決まっているものなのですか。

中野:脳内の部位の働きや神経伝達物質の作用は、遺伝的要素が強く影響しているといわれています。例えば、ドーパミンの感受性は、脳の神経細胞にあるドーパミン受容体にかかわる遺伝子によって、バリエーションが生まれます。この遺伝的傾向を持つ人の割合を世界各国で調べたところ、最もパーセンテージが高かったのがスペイン系の人々。また、ヨーロッパからアメリカに移住した人たちも高いことがわかりました。

前編でお話したように、ドーパミン感受性が高い人は快楽的で、過去にとらわれず、新しいことにチャレンジする「新奇探索性」が強い。例えば、スペイン系の多い南米アルゼンチンは、過去に何度もデフォルト(国家政府の債務不履行)を経験しながら、そのたびになんとか乗り越えています。また、移民たちは今までの生活を捨てて新大陸へ渡り、アメリカを世界有数の経済大国に育てました。その背景には、「お金持ち脳」になれる遺伝的要素を持った人が多くいたといえるでしょう。

対照的に、この調査で日本人は、「新奇探索性」の高い人の割合が世界的にみても低いことが明らかになりました。新しいものに挑戦するのが苦手、リスクよりも安定を好むというお金に対する態度にも現れているといえそうです。

貯蓄指向の脳は、勝負の楽しみを学習することで「お金持ち脳」に?!

──遺伝的に「お金持ち脳」ではないとしたら、もう変えられないのでしょうか。

中野:脳が働くことの面白さとして、「変化に対応して戦略を変えられる」ことがあります。
本来、生物が個体数の減少、あるいは種の絶滅を免れるために環境変化へ適応していくには、多くの世代を経なければなりません。遺伝子が規定する生物の生存戦略への適応は、一世代では為しえないのです。しかし、脳があることによって、世代を経なくても、一つの個体が「こうすればいいかもしれない」と思った時点で戦略を変えられる。もともと遺伝的に適した性質を持っていなくても、学習することで、その場に応じた戦略をとることができるのです。

例えていうなら、キリンが高い樹木の上の葉を取りたいと思っても、急に首は伸びません。しかし、人間は高枝切りバサミを発明できるし、テレビの通販で手に入れることもできます(笑)。また、お隣の人が使っているのを見て、「便利そうだな」と参考にすることも、脳があることで可能にしているのです。

──ということは、リスクよりも安定を好む日本人も「お金持ち脳」に変われるということですね。

中野:人間という種を考えると、また面白いことがみえてきます。地球上の生物のほとんどは、現在居る場所にそのまま居ようとします。なぜなら、長く居続けられた場所は食べ物が十分であったり、敵に襲われなかったり、子どもを育てやすい環境だったからです。しかし、人間といくつかの霊長類は、長く居た場所に「飽きる」。普通の生物ならずっと居るのに、なぜかその場所から出ようとするのです。

それを促進してきたのが、ドーパミンです。多少のリスクを取っても、次々と新しい土地をめざし、その環境に適応しながら繁栄してきたのが人間。だとすれば、その傾向に強い・弱いはあっても、人間は誰もが「新しいことをしてみたい、知りたい」という性質を持っているはずです。

例えば、自分は消極型のタイプであっても、その弱点を克服して、お金に対して積極的になろうとするのは、「脳が喜ぶ」行動だといえるでしょう。

──自分の弱点を克服して「お金持ち脳」を育てるには、どうしたらいいのでしょうか。

中野:消極型で「石橋を叩いている間にチャンスを逃してしまう」人は、スポーツやゲームで「勝つ喜び」を脳に覚えさせるといいでしょう。偶然が勝敗を左右するものよりも、知識や経験を積んで、「だから勝てたんだ」と自信が持てるような種類のものがおすすめです。

ギャンブラー気質は「勝たない」訓練で自己管理を学ぶ

中野:一方で、積極型なのはいいけれど、ギャンブラー気質で浮き沈みが激しい人は、「後出し負けジャンケン」で前頭前皮質を鍛えるトレーニングがおすすめです。これは、他の人が先に出した後で、その手にあえて“負ける”手を出す練習をするというもの。ジャンケンには「勝ちたい」ものですが、それをあえて「勝たない」訓練をすることで、自制心や自己管理能力といった前頭前皮質の機能を高めることができます。

リスクより貯蓄を好む「消極型」脳、安定よりチャレンジを楽しむ「積極型」脳。互いが学び合うことで、より確かな「お金持ち脳」になれるといえそうです。第2回では、投資を成功させる脳の特徴と、その学習法を紹介します。

(プロフィール)
中野信子氏
脳科学者・医学博士

1975年生まれ。東日本国際大学特任教授、横浜市立大学客員准教授。東京大学工学部卒業後、2004年東京大学大学院医学系研究科医科学専攻修士課程修了、2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程終了。2008~2010年まで、フランス原子力庁サクレー研究所で研究員として勤務。『東大卒の女性脳科学者が、金持ち脳のなり方、全部教えます』(経済界)、『脳科学者からみた「祈り」』(潮出版)、『世界で通用する人がいつもやっていること』(アスコム)、『サイコパス』(文藝春秋)、『ヒトはいじめをやめられない』(小学館)など著書多数。 

日経BPコンサルティング 金融コンテンツLab. 
山田真理

日経BPコンサルティング「金融コンテンツLab.」(https://consult.nikkeibp.co.jp/financial-contents-lab/)は、難しくなりがちなお金の話題を、わかりやすいコンテンツに仕上げることをテーマとして取材・情報発信にあたっている制作研究機関。月刊誌『日経マネー』編集部の在籍経験の長いベテランスタッフが中心となり、マネー系コンテンツを提供している。

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