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「いい風が吹く」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「いい風が吹く」

そんな商いが集まった東京証券取引所。
今は東証Arrowsのネオンがくるくると回っているだけですが、かなり昔までは場立ちが大勢いて日本経済のダイナミックさの代表のような場所でした。
残っているのは、さまざまな逸話。
明治時代の取引所には「江戸銀」というお寿司屋さんがあって、ランチはお鮨だったそうです。
「握り鮨を立ちながら食べていた」という記録が残っているそうです。
商いが多い日は、三越前の「日本橋弁松」のお弁当を注文していたという記録もあるそうです。
今は近隣の500円のテイクアウトのお弁当が当たり前になってしまいましたが、兜町はリッチだったんですね。
その取引所でゲンを担ぐ話。
「TOKYO STOCK EXCHANGE」のパネルがかけられた東入り口。
この出入り口は、「ここぞ」という日に場立ちたちが行き交っていたという話が残っています。
「勝負の日は南口ではなく、わざわざ東口から場立ちが入場した」。
遠回りしてでも正門から入る、というのが習性だったのでしょうか。
ふと思うのは、東証にはなんで入り口が多いのだろうかということ。
シャッターが閉まったものも含めると、入り口だらけです。
これは、旧取引所が「いい風が吹くように」と四方八方に扉が設置されていたことに由来するとの話。
だから、今の東証にもいくつもの扉があるとされます。
確かに、時折「いい風」は吹いてくれますが、「寒い風」も吹くことがあります。
でも、「風通しの良さ」は取引所の条件なのかも知れません。
興味深いのは「立会場=今のアローズの場所」
もともと3階建てにする予定だったそうです。
ところが、証券会社からは「何を考えているのですか。青天井にしてください」と、猛反発。
そこで、吹き抜け構造で天窓が設置されたといいます。
天窓は硝子ですから、人差し指で上を指せば「旭硝子(現AGC)」の指サイン。
それぞれの小さな場所に、由来や伝統が残っているのが取引所でもあります。

因みに・・・。
東京証券取引所で取引が再開されたのは1949年(昭和24年)5月16日。まもなく、人間でいえば満70歳の古希を迎えます。ということは、まもなく日経平均株価の70年移動平均値が算出可能になるということ。日経平均株価の算出スタート(当時は取引所が「東証修正平均株価」として公表)は、1950年9月7日。このときに遡って計算された東証再開時の日経平均株価は176円。昔日の印象です。

「ドラマ」

相場や株価というのは、現実の世界に存在しています。
不思議と、虚構の世界の真実と思えるのは気のせいかも知れません。
夢を追いかける現実と、夢を追いかける虚構。
最初は現実なのに、いつの間にか虚構の世界に迷い込むもの。
このときの怖さは、さほどないのでしょう。
一方で、最初は虚構の世界で泳いでいたのに、いずれ現実に晒されます。
このときは恐怖感を伴っているように思えます。
いずれにしても、虚構と現実を行ったり来たり。
本当はすべて現実の世界で、現実対峙なのです。逃避と直視の往来。
この感覚は、結構不思議なもの。
もっとも、虚構という意味では「ドラマ」や「映画」というのは結構投資心理の勉強の役に立ちます。
ドラマは脚本に従って進むものであり、結果は見えているもの。
しかし、その結末に向けてのシナリオ推移は、右往左往します。
見ている方もあらかた結末が分かっているのに、途中のイベントや脇道に結構感動したりします。
結果があることのプロセスの感じ方とう点では、株式市場にも似ている部分です。
あるいは、シリーズ物などでは、半年ほど休むとまた同じ配役でスタート。
休んでいても、戻ってきたときに温故知新を感じるのは銘柄も一緒。
あるいは、犯人や捜査員、上司や部下、恋人たちのセリフもいろいろ。
たった一行のセリフが、時によっては相場の解釈に役立つこともあります。
予感と結果の整合性を求める作業も株と一緒。
しかも、どちらも感動を求めるもの。
そういう意味で、ドラマは株式投資の必需品かもしれません。

「愛でて忘れる」

4月。卯月は本来「卯の花」が真っ盛りという意味ですが、「卯=植える」でもあるそうです。
この時期。部長になる次長さんもいれば、課長になる課長代理さんもおられるでしょう。変化の季節に、風景も否応なく変わります。
マーケット的には、「昨年来高安値が年初来高安値」に。指数も個別銘柄株価も、明らかに水準訂正。実は、大納会・大初会よりも大きなイベントです。
逆に、散り際の美学の最たるものはサクラ。満開の花を見上げ、瞬間美を賞味するのが日本人の気質に合っているのでしょう。何もかも、忘れた耽美といった印象。
一方で、サクラが去ると、人は新緑の美を愛でます。一斉の息吹は、確かに新しい生命。イチョウの一気の緑化など、その最たる例です。
しかし、イチョウの真髄は晩秋のあの黄葉(こうよう)。敷き詰められた落葉に美を見出すことになります。株式市場的にはサクラの刹那的美とイチョウの銀杏落葉のどちらが良いのでしょうか。
春には秋の美を忘れ、秋には春のサクラ満開を忘れるというような心理は、マーケットの「忘れたフリ」とあまり変りはありません。

「灰汁(あく)抜け」
株価を下落させる悪材料が出尽くして、下落が一段落すること。

「味」
株価の様子のこと。
「地合い」「地味」「場味」ともいう。

「ちゃぶつく」
見込みが外れて、売っても買っても思い通りにいかず、損を重ねてしまうこと。

「もしも」
単に「もしもし」の「し」を省略したもの。
「し」を省略してどれだけ時間が短縮できるかどうかは不明。
むしろ、せっかちな証券マンは何度も電話をかけるので生じたという説もある。

「まる」
日本の証券会社の、ほぼ共通用語。
「×」「ゼロ=0」「取り消し」の意味。
逆に、約定したときなどに使うのは「キメ」「ダン」。
約定がついたときに左右の人差し指を重ねて×を作れば、「約定した」という手サイン。
人差し指と中指に、別の手の人差し指を交差させて「キ」のジを作るのも「キメ」のシルシ。
場立ち出身の人たちは、よく使っていました。
外資系が参入してからは「ダン(Done)」とも言うようになりましたが、これは手サインがありません。

「コツン」
底打ちを表現する言葉。落ちて地面にぶつかってコツンと音がすることに由来。
実際に音がコツンと聞こえることはない。
聞こえたとしたら幻聴。

「いって来い」
相場や株価が値上がりまたは値下がりした後に、結局はもとの水準まで逆戻りしてしまうこと。
ゼロ、トントン、ツーペイとも言う。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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