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増税先延ばしで起こること

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(写真=PIXTA)

 安倍首相は6月1日、2017年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げを2年半延期し、2019年10月とすることを正式に表明しました。元々2015年10月に予定されていた10%への引き上げも、2017年4月に1年半延期した経緯があり、「財政再建が遠のく」といった批判の声が聞かれます。

厚労省は1兆3,000億円不足すると主張

 政府が従前から掲げていた目標は、国と地方を合わせた2018年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス))の赤字額を名目GDP比で1%程度にすること、2020年度までには、プライマリーバランスを黒字化することでした。

 プライマリーバランスとは、歳入(国債発行を除く、税などによる収入)から、歳出(国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用を除く)を差し引いた収支のこと。その時点で必要とされる経費を、その期間の収入でどれだけまかなえているかをはかるものです。支出が収入を上回ると財政は赤字となっていることを意味します(収入<支出)。

 財政健全化を図るために、国の赤字がGDPに対してどのくらいあるのか(赤字の対GDP比)で表されることが多いようです。
日本では1992年度から財政赤字が続いており、政府は財政健全化に向けた目標で、①2015年度までに2010年度と比較して赤字の対GDP比を半減する、②2020年度までの黒字化を目指してきました。

 しかし、内閣府の試算では、消費再増税を予定通り2017年4月に行ったとしても、2020年度のプライマリーバランスは約6.5兆円の赤字が見込まれています。今回の延期でプライマリーバランスの黒字化はさらに難しい状況になったといえるでしょう。

 増税延期に反対している小黒一正・法政大学経済学部教授は、もし2019年10月増税が再び延期されるようなことがあれば、経済成長を楽観的に見込んだとしても、2020年度のプライマリーバランスの赤字は約12兆円になると警鐘を鳴らしています。

 2020年度から2025年度にかけては、団塊の世代が75歳以上となるため、医療・介護費の急増が予測されています。厚労省の推計では、2015年度の医療・介護費は約50兆円でしたが、2025年度には約73兆円に膨らむとみています。延期の影響と社会保障費の急増により、財政再建の計画はより実現が難しくなりつつあります。

国債については官房長官が「影響ない」としている

 みずほ総合研究所のチーフエコノミスト高田創氏は、「海外環境の変化からマインドの低下が生じしているなかでは、消費税引き上げ延期はやむを得ない面がある」としています(5月24日付けリサーチTODAY)。

 その中では、4年延期して2021年度に引き上げた場合、プライマリーバランスは4兆円程度下振れし、それにより財政の改善は遅れると指摘しています。そのうえで、政府債務が対GDP比で高まる可能性は限定的で、2020年代前半がピークとなる(そこから減少するという)可能性に変化はないとみています。

 また、格付会社のS&Pグローバル・レーティングは6月1日、「日本の格付け評価には影響しない」との見解を発表しています。7月14日現在の日本の格付けは「シングルAプラス」で、見通しは「安定的」です。

 菅義偉官房長は6月3日の会見で、日本国債の信用に与える影響について「民間会社の動向分析や評価内容についてのコメントは控えたい」としながらも、影響はないとの見解を示しています。

 消費税率が上がれば消費が抑制され、経済成長はマイナスとなるかもしれません。しかし、税率引き上げを延期すれば、財政状況の改善が先送りされるともいえそうです。政府の今後の選択や舵取りに、これまで以上に注目が集まることは間違いないでしょう。