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「平成の終焉」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「平成の終焉」

平成の東証1部市場。
【上場企業数】1130(昭和最後の1988年末)→2140(平成31年4月26日)
【時価総額】462兆円→608兆円
【単純配当利回り】0.51%→1.86%
【日経平均株価】30,209円54銭(昭和最終取引日1989年1月6日)→22,258円73銭
平成30年間で7,950円81銭(26.3%)の下落。
平成改元時から現在まで採用されている銘柄は225銘柄中77銘柄。

いずれにしても平成の時代は終焉。令和の新時代を迎えました。
平成の最終日に考えたこと。
30年という時間は走馬灯。
実感は「だいぶいろいろなことをした」。
REITの研究で全米を駆け巡って小口化小商品を組成。
支店の営業課長をやったときは、部下に初めての女性総合職の方がいました。
その後はトレーディングルームで金法担当のトレーダー。
当時、金融法人に毎週末に届けていたマーケットレター。全国区で読んでいただいたことも今は歴史。
結局、ポジションやタイトルは変わっても、ずーっと続けてきて25年近くになりました。
あるいは、ネット証券の立ち上げとともに仕組債を1年で約6,000億円組成したことも平成の歴史でしょうか。
業界紙の編集長のポストに就いてからは、完全にマーケットに即しての日々。
当時、約3年間、毎週トップインタビューをやっていたことが今のIRの仕事につながっているように思います。
リーマンショックも東日本大震災も越えてある今。
「平成時代」って改めて考えてみると、アッという間の時間軸。
書いた本も10冊以上になりました。
平成の半分くらいの時間を使って週末に行ってきたのはIR系の仕事。
一方通行だったIRを多少は双方向にしてきたかなという感じです。
もっとも、疾風怒濤ではありましたが「なにはのことも夢のまた夢」。
「夢をあきらめないで」でもあります。

「昭和」

その昔、昭和30年代。
時はまさに安倍総理がお手本とする「高度成長期」です。
インターネット取引など存在していなかった当時、町の証券会社に投資家が押しかけました。
そして、列をなした投資家さんたちは声を揃えて「ダウをください」。
今の日経平均株価は、当時東証修正平均株価と呼ばれていました。
「ALWAYS三丁目の夕日」に描かれていたように、日本が超元気で、明日は必ず今日よりも輝いていると思えた頃の話です。
東京タワーが立つ直前の昭和32年12月に471円だった「東証ダウ」が、東京五輪前の昭和36年7月には1,829円まで上昇しました。
世にいう岩戸相場です。
上昇率は3.8倍。
朝鮮戦争特需の昭和25年6月から28年3月までの2年半で「東証ダウ」は約5倍。
昭和29年11月から昭和32年5月までの神武相場では、2年半で約2倍。
相場が下がってもまた復活を遂げてきた東京株式市場でしたから、これも無理のないこと。
「毎日上がるダウを買いたい」という投資家さんが証券会社に押しかけたのです。
個人投資家さんだけでなく、例えば、アメリカのピーター・リンチ氏が率いたフィディリティなどの投信も日本株買いに動き小さな市場での大きな存在だったので「池の中の鯨」などと呼ばれていました。
当時、世の中に存在していた「投資信託」。「東証ダウ」という指数を買いたいと思っても、個人投資家さんの希望は叶いませんでした。
感覚的に「東証ダウ」を買いたいという投資家さんの気持ちも財布も満たすことはできなかったのです。今は先物もETFもあるから時代は進歩したと言えますね。
因みに、日経平均株価のスタートは、1950年9月の「東証修正平均株価」。
1971年7月に「NSB225種修正平均」を開始。
1975年5月に「日経ダウ平均」算出開始。
1985年5月「日経平均株価」に名称変更。10月から1分ごとの算出が開始されました。
2010年1月には、15秒ごとの算出開始。
2017年1月には、5秒ごとの算出開始。
新入社員の頃の数ヵ月。
支店の店頭にあるボードの日経平均株価の数字を変えるという業務がありました。
「寄り」、「10時15分」、「前引け」、「後場寄り」、「14時15分」、「大引け」の1日6回。
それしか日経平均株価が計算されなかったなんて、今は昔の出来事。
もっとも、同時に変えていた割引債の価格(ワリコーとかワリチョーなんて今ではありません)の変更は、1日1回。
多少回数は多かったですが、それでも1日6回ですから、想像も出来ない牧歌的世界になってしまいました。
牧歌的世界といえば、日本に導入直後の裁定取引。
当時は立会い銘柄もありましたから、市場部の場立ちさんが、1銘柄ずつ伝票を持ってポストの間を走っていたと聞きます。
だから、今のような瞬時の商いでなく、ゆったりとした動きの裁定取引。株式部の大きなボードが左上からポツポツ明滅すると「あ、裁定が入っている」なんて言葉。
あるいは、225採用銘柄の品薄株だった洋カン(旧 東洋製罐)の出来高が増えると「裁定観測」。
瞬時のスピードが問われる今とは全く違う世界でした。

「IR」

IRといえば・・・。
先日ある企業のトップと話していたのは「進化するIR」という話題。
十年一日の如く同じプレゼンを繰り返す企業もあれば、1回1回違ったIRを行う企業もあります。
あるいは、形は同じでも中身がその都度進化している企業があります。
この違いは何なのでしょう。
トップの意識の差、社員の創意工夫の問題。
あるいは、局面が業容の拡大や低迷というのもあるでしょう。
残念ながら株価が下がっていたり、動いていないという側面もあるかも知れません。
よく直面するのは、IRの講演の最中に居眠りをする参加者が多いIR。
一方で、全く眠っている姿が見えず参加者が輝いているIR。
この違いも、どこに起因するのでしょう。
決して表面の派手さやツールの立派さではないように思えます。
IRに対する真摯な意識の差なのだと思います。こちら側が聞きたいのは「明確な未来戦略」。
政策や外部環境に依存して業容が変化するなんて、「あなたまかせ的な話」は聞きたくないでしょう。
企業の主人公として、どうやって業績を伸ばし企業を成長させるのかが一番聞きたいところ。
アナリストに迎合するような微細なところに入り込んでいく必要はありません。
大所高所の経営戦略が求められているのです。
そこをはぐらかして「EBITDA、とか1Qの業績」なんて顕微鏡みたいな話だと眠くなるような気がします。
「投資家との対話促進」という日本IR協議会の「IR 活動の実態調査(2019年)」。
投資家との対話促進を実感している企業は63.1%。
「機関投資家などとの間で中長期的な対話が進みつつある」と現実を分析しています。
多くのIR担当者にとって投資家とは恐らく機関投資家のこと。
その証拠に、海外IRと個人投資家向けIRのスケジュールが重なると、担当者は必ずと言っていいほど海外IRを優先します。
「ボストンでは、とか、ロンドンで」なんて自慢げに言うIR担当者はいますが、「大阪で、福岡で」なんていう担当者は少ないもの。
ファンドマネジャーやアナリストなどと、個人投資家を平等に扱える担当者が増えてきたときにこの国のIRは一皮むけるような気がしてなりません、 もっとも・・・。
現状で個人投資家向けIR活動をしている企業は89%。
数は多いです。
しかし、形だけでなく、機関投資家重視の姿勢ではなく、個人は個人として認識した上で行われるIRが求められています。
「個人はおみやげ目当ての人が多いから」なんて言っていると、手痛いしっぺ返しをくらうこともあるでしょう。
IRは学問ではありません。
そして、業績に結びつく分野でもありません。
それでもIRを行う意味をよく考えることが企業側に求められること。
簡単に言えば「ファンを増やす」ということ。
スポーツでも芸能でも、数字をこねくり回してファンになる人は滅多にいません。
瞬間的に「アッ」と思ってもらう努力を重ねることが、一番大事なのだと思います。
それは、決して見かけのパフォーマンスや饒舌な話法などではありません。
「感動できる企業の中身」が問われる時代になってきたということです。
あるいは・・・。
決算短信や会社説明書という文字図形だけでは理解されにくかったり、誤解されたりすることもあるでしょう。
そこを埋めるのが、顔と顔を合わせて言葉で補う対話。
ふれあうことで相互理解は進みますし、それがIR。
結局、欲しいもの、求められるのは「未来への意志」ということ。
意志がなければ目標も漠然としてしまいます。
売上規模で50億円の企業も1,000億円超の企業に対しても同様に欲しいのは「未来への意志」。
コレはトップや経営陣の思考の方向性ということ。
過去ではなく進化しての未来ということになります。

ある社長の言葉。
「私は社員を尊敬しています」。
コレって言えるようで言えない言葉。
しかも、その会社の社員は「会社大好き、仕事没入」。
この会社の時間軸は刹那的でなく、数年単位で進んでいるようです。
たぶん、社長も社員も「仕事は感動を創造する企業だから時間はアッと言う間に過ぎ去っている」のでしょう。
そして「仕事は一期一会だから一瞬の時に全てを投入する」。
背景にあるのは「オンリーワン企業そしてナンバーワン企業」。
そういう覚悟とプライドがあらゆる企業に欲しいものです。
というか、それがあれば鬼に金棒です。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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