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「1992年」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「1992年」

1992年の秋、ニューヨークのマンハッタン。
エンパイアステートビルの見えるコンドミニアムで、一人の債券トレーダーと一人の不動産ファンド組成者とお酒を飲んだことがあります。
債券トレーダーは、「もうアメリカ市場はダメだ。年末にはクビだ。いつまでエンパイアステートビルを眺めていられることか・・・」と言って、飼っていたブルドッグをなでていました。
不動産ファンド組成者は、「ジャパンマネーには勝てない。次々とアメリカの大企業を買収している」。
(既に日本ではバブルが崩壊していましたが、株と違って不動産はタイムラグがありましたからこういう見解になったのでしょう)。
二人の意見が一致していたのは、「アメリカはダメだ。絶望的だ」ということ。
そして、ちょうど行われていた大統領選挙で民主党のクリントン候補が当選すれば、アメリカは変わるかもしれないという見方でした。
当時、現職大統領のブッシュ氏は湾岸戦争で疲弊。
アメリカ政府は貿易赤字と財政赤字で苦しむ一方で、銃や麻薬の蔓延で社会はボロボロになっていました。
3人の中で唯一アメリカ人でなかった筆者はひそかに考えました。
「アメリカはまだ希望の持てる状態にない」と。
ところが、クリントン政治はアメリカを見事に復活させました。
ヤフーやグーグルなどの新興企業群を成長させ、インターネットを用いて世界をITバブルへと導いたのです。
この導入は見事でした。
クリントンは、魔術を使った訳ではありません。新たなバブルを惹起しただけのこと。
それはIT分野だけではなく、金融の部分もそうでした。
ウォール街を足がかりにしてファンドバブルを起こしたともいえるでしょう。
今では、結構名前が知られてきたがヘッジファンドや投資ファンドなどはそのいい例です。
実際に、バブル崩壊で疲弊した日本の金融界にアメリカの投資ファンドが舞い降りたことは記憶に残っているところです。
アメリカは終わったのではなく、始まったのでした。
アメリカという国は、実はモノつくりの上手な国ではありません。
最後の砦であった自動車でさえ、風前の灯。
借金は多大にして、かつ強烈に消費をする国。これは間違いないでしょう。
消費はする、でも良い製品は作らないというのが基本。
逆に、借金を何とか棒引きにする手法やサブプライムに見られるように金融商品をさまざまな形で作り上げ、他国に売る技術は長けているようです。
アメリカは、そういう国であると押さえておきたいものです。

「ビビリと欲張り」

「市場を動かす感情は一体何なのか」を、CNNマネーが見える化してくれたのが「恐怖と欲望指数」。
7つの指標から計算された「Fear & Greed Index」です。
投資家は、恐怖と欲望という2つの感情によって動かされます。
投資家が強い恐怖を感じると、投資家は株式を投げ売りし、株価は適正価格よりも過度に下回ります。
反対に、投資家が欲張りになると、投資家は株価が高値でもどんどん買い上げて、株価は適正価格よりも過度に上昇するもの。
それを目で見てすぐわかるようにしてあるスグレモノです。

4月23日段階で、「75ポイント」になりました。
これは「極端な欲張り状態」。
理由は・・・。
プットの売買が少なく、多くの投資家は「強気」。
安全資産の米国債から、株式への資金シフトが継続。
米国債に対する米株のパフォーマンスは過去2年の最高水準。
因みに、その1週間前は70ポイント。
1ヵ月前は59ポイント。
1年前は40ポイントでした。
リーマンショック直前には「12」。
「ビビリと欲張り指数」と言ってもよいかも知れません。
「他人が貪欲になっている時は臆病に、他人が臆病になっている時は貪欲に」
(ウォーレン・バフェット)
時にはこんな指標を押さえておくのも必要かも知れません。

「名言?」

相場に必要なのは「勘と度胸」と言うと、いささか軽く聞こえますが、実は「勘」は記憶の産物、そして「度胸」は推理の結果です。

涙の数だけ強くなれる訳ではないかも知れませんが、努力の跡だけ市場が見えてくるのが株式市場。
「企業には訴えたいことが必ずある」、という前提で企業を見ていくことは株式相場そのものの行方を推理する意味で必要なことでしょう。

過去を振り返るだけでは、将来の予想や日本のあるべき姿は予見出来ません。些末にとらわれず大局を眺めることを心がけたいものです。

「専門家はしばしば理路整然と間違う」という言葉が昔からあります。
他人のささやきで動くのではなくて、自分の眼力を養い信じることの方がよほど役に立つはずです。
どう考えても相場で重要なのは大局観。でも、この積分的思考は無視され、市場では微分したコメントばかりが横行しています。
刹那的なその日暮らしの毎日。せいぜい来週くらいまでしかない時間軸。
それでは、視点が濁って来るに違いありません。

世界の株式市場の動向も、個別銘柄の推移も、さまざまなお化粧に惑わされてはいけません。
綺麗に飾ったって、儲からなければ元の木阿弥。
そのための審美眼を日々磨いていきましょう。

相場の張り方とか、投資の原則なんて立派なものでもないでしょう。
多くの市場関係者が指摘するように「方向性・値幅・時間軸・タイミング」。ここに集約されるでしょう。
この原理原則さえわきまえていれば、妙な横文字など使わなくても相場の方向性やシナリオに明るくなるはずです。
原理原則やイロハのイを忘れて奇妙な高等戦術っぽいものに籠絡(ろうらく)されてはいけません。

相場で必要なのは相場観測もあるかも知れませんが、本来は「儲ける」という目標。
この目標が美化され、昇華しているから行方が見えなくなります。
すべての市場参加者は「利益」を求めてうごめいているという現実。
ここを直視しなければ、相場の織り成す綾やそのリズムは体験できないかも知れません。

数字だけで物事を判断するのは、稟議書投資が中心の機関投資家。
彼らには決算だけでも事足りるでしょう。
しかし、会社は機械ではなく生き物。
日々の業務姿勢や世相の動向、そして発表されるプレスの行間を読み解く技術を磨くことは、機関投資家の一歩先を歩んで「谷間のゆり」のようにひっそりとしているものの着実に咲き始めた銘柄を見つけるコツだと思います。

最近感じるのは「岡目八目投資法」と「直撃投資法」の違い。
決算をアレコレいじりまくり、チャートをあれこれといじりまくり、それでも企業取材をしない市場関係者の多さ。
傍らでアレコレ詮索するくらいなら、直撃すればいいと思うのに、そうしないもの。
逆に、企業側の声を間いてから決算やチャートを眺めると、どんなに頑張っても見えなかったものが見えてくる気がします。
この差は結構大きいのではないでしょうか。

株式市場は決して崇高な場所などではありません。
相場は相場の中から生まれ、相場は理論や分析ではなく、人の心理と心理の戦争で成長するものです。
機械的なスクリーニングなどではなく、人間が主役であるべき企業を人間の目でみることが大切ということです。

密室にこもってのデスクワークだけでは、決して成長銘柄の発掘など出来ません。
頭や理論だけで考えても、市場は決してその通りの動きにはならないことばかり。
むしろ、手足顔という身体を使って多くの企業と接触することが大切。
その多くのサンプルを丁寧に仕分けして、成長銘柄を見つける作業が必要です。

すべて過去に自分で言った言葉ですが、活字になると結構もっともらしく見えてくるものですね。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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