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「天底を当てない?」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「天底を当てない?」

1995年頃の秋頃。
「相場の天底を当てようとするから見間違える」と、先輩氏に言われたことがあります。
「銘柄を当てる、なんて表現は不遜だ」とも。
「その前に相場の哲学をよく考えてみろ」と。
まったく理解できませんでした。
そして、そう言われた日は妙に目が冴えて眠れず、そして寝覚めが悪いこと、この上ありませんでした。
「相場は当てるものではない?」
まず、この概念が理解不能。
「相場の哲学?」。
これも意味不明。
そういえば、この先輩氏はよく腹を立てていました。
「素人がわかったようなことを言ってる」と、よく聞いたもの。
そして議論好き。
最初は優しく低姿勢で教えを乞うような姿で近づき、最後は容赦なく木っ端微塵に論破。
いつの間にか周囲から人が消えていったのも現実です。
でも、そのうちに孤高の人と昇華していったような印象。
あれから20年以上近く経ってみると、なんとなくこの先輩氏の言わんとしていたことが朧気(おぼろげ)ながら見えてきたような気がします。
「相場の天底を当てようとする」のではなく、「トレンドを見極めてトレンドの変化を感じれば良い」のだと勝手に解釈しました。
「〇〇円で天井を打ち●●円で底を打ち、また△△円程度まで上昇」。
そういう表現をする市場関係者は多いもの。
しかし、この価格の根拠は何なのかは実はよくわかりません。
現実に指数が上がれば目標値が高くなり、現実に指数が下がれば目標値は低くなるもの。
そんな相場追随型の視点は、市場の求めるものなのかどうかは微妙です。
むしろ、「6月から上昇し、9月か10月に天井。そして年末盛り返す」みたいな時間軸の方が役に立つようにも思えます。
とかく相場は難しいもの
「天底は当てない、当たらない」という言葉は脳裏から去ることはないのでしょう。
ゴルフだって「飛ばさない、乗せない、寄せない、入れない」が好スコアのコツ。
そして、上も下も「限界を覚悟」できれば、鬼に金棒という気もします。
相場に対する「決意と覚悟」。
簡単にできそうですが、なかなか難しいものです。
実は、天底や銘柄が当たらないから「相場の天底を当てようとするから見間違える」なんて、先輩氏はおっしゃったのかも知れません。

人は株が下がるとため息をつき、株が上がると感激するもの。
これはなぜなのかと考えてみると、多くの人が売り目線でいるというのが理由なのでしょう。
「持っている株価が上がった。
だから売れば儲かる。
どうせならもっと上がって欲しい」。
ここに日本経済の繁栄とか、世界経済の拡大とか、企業の躍進なんて視点はあまりありません。
ただただ、「儲かってきた。どこで売ろうか」という売り目線。
当然ながら株価が下がってくると、買値をも下回り利食いは不可能。
だから下がって欲しくない。
これも売り目線。
だから市場は売り目線で満ちているとも言えます。
下がった時にシメシメという買い目線には滅多に出会わないのは残念ですが・・・。

「泰然自若」

「落ち着いて欲しい」と願いながらも、実際に落ち着いた相場展開に戻れば、どこかに隙間風というのが株式市場。
「真夏の夜の夢にまた遭遇したい。
吹雪の中で見かけた美女に再会したい」。
どうしても、この怖いものみたさの心理は変えようがありません。
ジャンプのためには、すくみも必要。
心でわかっていても、体でわかっていても、すくみの時代は不気味なもの。
そして、ジャンプが始まれば「やっぱり」のオンパレード。
逆に、すくみに転じても「やっぱり」の連続。
「やっぱり、と思う相場に後悔し」。
微妙な心理の織りなすのが株式相場。
それでも、マーケットに人が集まってくるのは、心のどこかで「きっといいことがあるに違いない」という囁きが聞こえるからなのでしょう。
この囁きは、時折「悪魔のささやき」と言われます。
でも、本当に悪魔なのでしょうか。
きっと「どこか変。どこかおかしい」という取り越し苦労的な囁きの中に、相場の未来の真実が隠されているに違いないといつも思います。
上昇局面の連続に向かい合うと「怖い」。
大幅な下落局面に遭遇すると「怖い」。
市場参加者のDNAに刷り込まれたこの恐怖心理こそが、実は相場を動かす原動力。
相場を「怖い」と思うことが滅多にないだろうと思われるのは、きっと一部の世界的超資産家だけ。
超資産家でない以上は、「怖い」心理と尊重しながらも冒険を続けるという作業に没頭するしかないのかも知れません。
とはいえ、相場に対峙している以上は「怖い」ではなく、「やっぱり」でもなく、「こうなる筈」や「そうなると見る」に傾きたいもの。
相場の真実は、多くの市場関係者の後付け的な講釈にある訳ではありません。
市場参加者の先行きへの読みと、期待感と、投資家個々人の行動にある筈。
多額の資金を動かす機関投資家や外国人投資家が
決して偉いわけではないでしょう。
しかし、報道チックにはどうも機関投資家やファンドが主役。
そして、それに追随しているのが個人動向みたいな解釈。
どうも違うような気がします。
怖さを知った個人投資家さんの動きこそ、きっと相場の未来を反映していると考えたいものです。
自分のお金を投入している以上、雇われ人のファンドマネジャーを超越した存在と考えたいところです。
それにしても、相場に「喜怒哀楽」が減ってきました。
儲かれば喜び、損すれば怒り、読みが間違えば悲しみ、それでもいつでもどこかが楽しい。
理想的すぎる世界ですが、現実は何が起こっても無関心、無感動。
挙句の果てには、「投資にもメンタルトレーニングが必要だ」などといって、何でもかんでも前向きにする風潮まで登場。
急落に遭遇して、悲しみや哀しみ、そして怒りさえも抑えて何もなかったようなフリをすることなど、逆に精神衛生上は良くないでしょう。
あるいは、誰もが想定しなかったような反発に遭遇しても、顔色一つ変えずに「そうですね」。
これもどこかに嘘が潜んでいそうです。
喜怒哀楽を極力出さないのが美徳とされるのかも知れませんが、どうも納得のいかない部分。
くやしい、情けない、腹が立つというような人の持つ本質的なものを捨てて何があっても泰然自若。
その境地こそが、本来は相場に対峙する心構えかも知れないのでしょうが・・・。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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