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トランプ大統領をやめさせることはできるのか

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(写真=AR Pictures/Shutterstock.com)

2017年1月20日、米国の第45代大統領にドナルド・トランプ氏が就任しました。2016年の選挙中は、イスラム教徒への差別的な発言や女性蔑視発言などさまざまな発言が物議をかもしましたが、大統領選後の勝利演説では奔放で過激な発言を封印し「あの過激発言は選挙の戦略であって、実際に大統領になればまともな発言をするようになるのではないか」などといった期待も高まり、2016年終盤にはトランプ氏が掲げた経済政策に対する期待もあいまって、米株や米ドルが大きく買われる場面もみられました。

しかし、2017年に入ってもその過激な言動は続いています。貿易政策などでは個別の国や企業を名指しで非難し、メキシコとの国境に壁を作る大統領令にもサインしました。メディアとも激しい攻防を繰り返し、トランプ大統領を非難するデモなども行われているようです。これを反映し、ネット上では大統領を弾劾・罷免する方法に関する検索が飛躍的に伸びたとされています。ちなみに罷免とは職を辞めさせること、弾劾とは罷免・処罰するための手続きのことです。

大統領をやめさせることは可能?

実際にアメリカの大統領を罷免する(辞めさせる)ことはできるのでしょうか。アメリカ合衆国憲法を調べてみました。

結論から言うと、大統領の弾劾手続きが合衆国憲法に記されており大統領を辞めさせることは可能です。

合衆国憲法 第2章 第4条に「大統領、副大統領および合衆国の全ての文官は、反逆罪、収賄罪、その他の重大な犯罪または軽犯罪について弾劾の訴追を受け、有罪判決を受けた場合には、その職を罷免される」
(The President, Vice President and all civil Officers of the United States, shall be removed from Office on Impeachment for, and Conviction of, Treason, Bribery, or other high Crimes and Misdemeanors.)とされています。

具体的な手続きとして、第1章 第2条 第5項「…弾劾の追訴権限は下院に属する」(The House of Representatives shall… have the sole Power of Impeachment.)としており、弾劾裁判を行うかどうかは下院が判断することになっています。下院が弾劾裁判を行うことを可決すると次の手続きとして、第1章 第3条 第6項「弾劾裁判を行う権限は上院に属する」「合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合…何人も出席議員の3分の2の賛成がなければ有罪となることはない」(The Senate shall have the sole Power to try all Impeachments. … When the President of the United States is tried, … no Person shall be convicted without the Concurrence of two thirds of the Members present.)とされています。

まとめると、
1. 大統領は何らかの犯罪行為があった場合、弾劾裁判を受け罷免される可能性がある
2. 弾劾裁判を行うかどうかは下院が審議し、賛成多数で可決される
3. 弾劾裁判は上院で行われ、3分の2以上の賛成をもって罷免が決定される

ということになります。

実際にあった過去のアメリカ大統領の弾劾

過去、弾劾裁判を行われた大統領は存在します。直近ではクリントン大統領がモニカ・ルインスキー事件に絡み、下院で弾劾裁判の実施が可決され上院で弾劾裁判が行われましたが、有罪評決に必要な3分の2には届かず、大統領罷免は免れました。また、自ら辞任した大統領も一人います。第37代のニクソン大統領はウォーターゲート事件に絡んで弾劾裁判の評決を経ずに自ら辞任しました。

トランプ大統領の過激な言動に対する反発は強いようですが、アメリカ合衆国憲法に則って(のっとって)大統領を辞めさせる場合には、1. 何らかの犯罪行為が証明され、2. 下院が過半数で弾劾裁判実施を決定し、3. 上院の3分の2以上が罷免に賛成する、という3点をクリアしなければならず、そのハードルは高そうです。

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