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トランプ政権の金融規制緩和の動きやFRB人事の行方に注目

(写真=PIXTA)

トランプ大統領は就任以降、活発に大統領令を発令しています。その中には、大統領選挙時に公約としていた、リーマンショック後に銀行の業務を制限すること等を盛り込んだ金融規制の緩和も含まれています。株式市場ではこうした動きを歓迎していますが、金融危機の再発を懸念視する声もあります。トランプ政権が掲げる景気刺激策とともに、金融規制の緩和やFRBの人事を通じた金融政策の見通しに及ぼす影響が注目されます。

金融規制改革法の見直しに関する大統領令に署名

トランプ米大統領は2017年2月3日に金融規制改革法の見直しに関する大統領令に署名しました。同法はドッド・フランク法とも呼ばれ、2008年9月のリーマンショックの発生が世界的な金融市場の動揺と景気の後退を招いた反省から、金融機関への監視を強化し、説明責任と透明性の向上とともに消費者保護の強化を目指して2010年7月に成立しました。

具体的には、経営破たんの際の影響が大きいとされた金融機関に対して、厳しい自己資本比率が課されたほか、連邦準備理事会(FRB)の元議長であるポール・ボルカー氏がオバマ前大統領の経済諮問会議議長時代に提唱した、大手銀行が自己資金でリスクの高い取引を行うことを禁じた「ボルカー・ルール」等が盛り込まれました。法律は2010年に成立しましたが、多くの行政機関に対する実施規則の制定等が2016年にかけて続いていました。

しかし、2017年1月に就任したトランプ大統領は、銀行の経営の負担を軽くすることで米国経済の成長につなげていくことを目的として、選挙期間中もドッド・フランク法の撤廃を公約に掲げていました。今回の件についても「良いビジネスを行っているのに銀行から資金が得られないのはドッド・フランク法が原因」と述べる等、銀行融資を阻んでいる過剰な規制の見直しを図ろうとしています。

金融機関の株価は上昇

米国の株式市場では、トランプ大統領による金融規制の見直し観測を背景に金融機関の株価が上昇しています。これまでは金融規制改革法に基づき、システム上、重要とされる金融機関は資産規模に応じて自己資本の積み増しを求められてきました。こうした資本の積み増し分が金融規制の緩和によって銀行に還元され、融資の拡大につながったり、銀行の株価が上昇すれば、米国の成長拡大に寄与する可能性は高いといえます。

安易な金融規制の緩和を懸念視する向きもしかし、過剰な融資に基づく米国の住宅バブルの崩壊をきっかけに、連鎖的な国際金融危機であるリーマンショックを招いた点をふまえれば、安易な金融規制の緩和が再び同様の金融危機を招く可能性が懸念されます。ドッド・フランク法の施行後も米国の銀行の貸出額や消費者信用は拡大しており、リーマンショック後に落ち込んだ住宅価格も持ち直して過去最高を更新する等、米国の信用創造機能は十分に働いているといえます。2月14日に議会証言を行ったイエレンFRB議長も、ドッド・フランク法の下で米国の銀行はより安全になり、利益も出し続けているとして、同法が米国の成長を阻害しているとの見方に反対しています。

FRBの人事が金融政策を左右する? 

また、2月10日にFRBは金融機関の規制を担当しているタルーロFRB理事が2017年4月に辞任することを発表しました。同理事は2009年1月にFRB理事に就任しましたが、任期は2022年1月末となっていますので、5年近くの任期を残して辞任することになります。タルーロ理事はオバマ政権下で金融規制改革法の導入に尽力しており、トランプ大統領による金融規制撤廃・見直しの動きに反発して辞任を決意したのではないかとの指摘がなされています。定員7名のFRB理事は現在2名が空席となっており、タルーロ理事が辞任すれば空席は3名となります。イエレンFRB議長とフィッシャー副議長の任期もそれぞれ2018年の2月と6月までとなっているため、トランプ政権が後任に金融規制の緩和に前向きな理事を送り込むことも考えられます。

ただ、ドッド・フランク法については、ボルカー・ルールの廃止や中小金融機関に対する過剰規制の緩和等の見直しにとどまる可能性があります。トランプ大統領は金融規制に関する検証結果を120日以内にまとめるようムニューチン財務長官に指示しましたが、ドッド・フランク法の見直しには議会の承認が必要です。上院では60人の議員の賛成が必要とされていますが、共和党は52議席しか保有しておらず、民主党議員の協力が欠かせません。しかし、民主党からは「大統領はウォール街ファーストだ」との批判の声があがっています。ドッド・フランク法がリーマンショックの教訓をもとに作られた法律であることを考えると、全面的な規制の緩和や見直しは世論の反発を招く可能性もあります。

金融規制の緩和やFRBの人事に対する思惑に注目

就任から約1ヵ月が経過した段階では、トランプ大統領は通商政策や安全保障に関する政策を優先している感が強いものの、就任後100日間の行動計画の中には金融規制の緩和も含まれています。大規模なインフラ投資や大型減税といった景気刺激策とともに、金融規制の緩和やFRBの人事に対する思惑が金融政策の見通し等に及ぼす影響が注目されます。

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