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豪州政治動向:7月2日に両院解散総選挙実施へ

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(写真=PIXTA)

 与党・保守連合のマルコム・ターンブル首相は上下両院を解散したうえで、7月2日に総選挙を実施すると表明しました。総選挙は当初、今年後半ごろに実施されるとみられていました。上下両院の解散は1987年以来、約30年ぶりとなります。

 世論調査では、与党・保守連合と最大野党・労働党との差は徐々に縮小しております。予断を許さない選挙戦の行方とともに、新政権が税制改革を実施し、中長期的な財政健全化が維持されるかどうかが注目されます。

ターンブル首相、7月2日に上下両院の解散総選挙の実施を表明

 与党・保守連合(自由党、国民党、地方自由党)のターンブル首相は3月21日、上院に提出している労働関連法案が5月11日までに可決されなければ、上下両院を解散したうえで、総選挙を7月2日に実施すると表明しました。

 総選挙は当初、2016年後半に実施されるとみられていたため、選挙の前倒しを示唆したことになります。豪州では、上院で法案が2度否決された場合、両院を解散し総選挙を実施することができます。労働関連法案は、上院で一度否決されていました。そして、4月18日に召集された議会で労働関連法案が否決されたため、ターンブル首相は改めて7月2日に上下両院の解散をともなう総選挙を実施すると表明しました。

豪州で上下両院の解散は1987年以来、約30年ぶりのことです。

上下両院ねじれで政府の政策遂行能力が低下

 ターンブル首相が3月に両院解散による総選挙前倒しの可能性を示唆した意図は、(1)上下両院のねじれを解消させたいとの思惑に加えて、(2)保守連合の高い支持を得ているなか、早めに選挙に打って出たい――というものとみられます。

 (1)に関して、豪州の議会は日本と同様に2院制が採用され、下院(150議席、任期3年、小選挙区制)と上院(76議席、任期6年、3年ごとに半数改選、州単位の比例代表制)でできています。ただ、豪州の上院は予算案の否決権が付与されるなど、日本の参議院と比べて強い権限があります。 

 2013年9月の総選挙では、保守連合が下院で圧勝し、6年ぶりに政権交代が実現しました。しかし、半数改選となった上院では、保守連合、2大政党の一角である労働党ともに過半数を占められませんでした。そのため、緑の党や小数政党が上院でキャスティングボートを握り、保守連合もこれらの政党との連携が不可欠となっています。

 そもそも、豪州では1981年以降は一時期を除き、下院を制した政党が上院では過半数を制することができないという両院のねじれ現象が常態化しています。

 ここには、「野党には与党の政策をチェックする機能を担ってほしい」という民意が反映されているとみられます。

 ただ、近年では上院でたびたび法案が否決されるなど、与党は困難な政策運営を強いられており、支持率が低迷する一因となっています。

 通常通りの総選挙なら上院は半数だけの改選のため、ねじれ解消は難しいでしょう。そのため、両院解散をともなう総選挙を実施(下院150議席と上院76議席の全議席が改選)することで、ねじれ現象を解消し、政府の政策運営能力を高めたいとの思惑があると見られます。

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ターンブル政権への期待は徐々にはく落、与党内で総選挙の前倒しを求める声も

 (2)についてですが、2013年9月の総選挙で勝利したトニー・アボット首相(当時)率いる保守連合は、 緊縮的な予算案を発表したところ国民の不興を買い、支持が下落しました。その後、長期にわたって野党・ 労働党の後塵(じん)を拝していました。

 総選挙が近づくなか、与党内からアボット首相に対する批判の声が高まり、2015年9月には急遽、与党・自由党が党首選を実施。前通信相だったターンブル氏がアボット氏を破り、新首相に就任したのです。

 投資銀行出身であるターンブル氏率いる新政権は、市場経済や自由競争を重視する姿勢を示したことから、市場では新たな経済政策運営への期待が高まり、保守連合の支持は急回復しました。

 しかし年明け以降は、これまで経済政策で目立った成果を上げていないターンブル政権への期待がはく落しつつあります。今後、さらなる支持率低下も警戒されており、与党内から総選挙の前倒しを求める声が高まっていたのです。

総選挙の行方は予断を許さない

 各種世論調査では、依然として与党・保守連合が優勢です。しかし、最大野党・労働党との差は徐々に縮小してきており、選挙戦の行方は予断を許しません。

 また、上院では、少数政党も議席を獲得しやすい州単位の「大選挙区比例代表制」であることから、2大政党ともに過半数を得られない状況が続くかもしれません。

 ただ、3月に上院選の投票制度が改正され、新制度のもとでは有権者の意向が反映されやすくなりました。この結果、アピール力に劣る少数政党の候補者が不利になるとみられています。投票制度の変更によって、両院のねじれが解消し、少数政党がキャスティングボートを握る現状の打破につながるかにも注目されます。

新政権が財政健全化を維持できるかに注目

 新政権には、競争力や生産性の引き上げにつながる成長戦略とともに、中長期的な財政規律の維持が求められます。

 2014-15年度(14年7月-15年6月)の豪州の純債務残高(政府の総債務残高から政府保有の金融資産=国民の保険料からなる年金積立金などを差し引いたもの)は名目GDP比15%程度と低水準にあり、大手格付会社から最上位格付けを維持しています。

 足元では、資源価格が低迷していることから法人税収が下がり、財政が悪化すると予想されています。緊縮財政への反発からアボット政権が退陣したこともあり、ターンブル政権は、ある程度の財政赤字を許容しつつも、緩やかな財政健全化を進める方針です。5月3日に発表された2016-17年度予算案では、2020-21年度に財政黒字化を達成するとの見通しが示されています。 

 中長期的には、消費税に相当する物品サービス税(GST、10%)の課税ベースを拡大するなど、税制改革が実施されるかが注目されます。財政健全化が維持されれば、相対的に高金利の先進国という側面に加え、信用力の高さが豪州の投資に対する安心感をもたらし、豪ドル相場の安定につながるとみられます。

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