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欧州政治不安が後退、市場の関心は次第に米国の景気や政策動向に向かう

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(写真=Slavko Sereda/Shutterstock.com)

5月上旬にドル円は約2ヵ月ぶりとなる114円台まで上昇

ドル円は5月に入りドル買い基調が続くなか、5月10日に一時114.38円まで上昇し3月中旬以来のドル高・円安水準をつけました。5月2日~3日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)や5月5日に発表された米国の4月雇用統計、5月7日に行われたフランスの大統領選挙(第2回決選投票)といった重要イベントがいずれも無難な結果となった点が大きいとみられます。また、米国では2017会計年度末(9月)までの予算が成立し、政府機関の閉鎖が回避されたほか、医療保険制度改革(オバマケア)代替法案が下院で可決され、トランプ政権の政策実行能力への不安がやや薄れたことも、ドル円の上昇に寄与したと考えられます。

欧州の政治や地政学リスクへの警戒感は低下

5月7日に行われたフランスの大統領選挙(決選投票)では、親欧州連合(EU)の無所属・中道路線を掲げるマクロン候補が、反EUでフランス第一主義を唱える極右政党・国民戦線のルペン候補に圧勝しました。今年3月のオランダ総選挙で反EUを掲げる極右政党の勢いが失速したのに続き、フランスでも反EUや反移民を掲げるルペン氏が敗れたことで、フランスのEU離脱懸念とともに欧州の政治に対する警戒感は大幅に後退しました。欧州の政治不安と並んで市場のリスク回避の動きにつながっていた地政学リスクについては、北朝鮮が核実験や米国を攻撃可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を強行する可能性等への警戒感が引き続きくすぶり続けています。ただ、韓国で北朝鮮に融和姿勢を示す新たな大統領が誕生するなか、トランプ政権も北朝鮮との間で対話に向けた動きを見せる等、目先の軍事的な衝突の可能性についてはひとまず低下していると考えられます。

市場の関心は次第に米国の景気や政策動向へ

欧州の政治不安や地政学リスクに対する過度の警戒感が後退するなか、市場の関心は次第に米国の景気や政策動向に向かうとみられます。米国の1-3月期実質GDP成長率は、前期比年率+0.7%と2016年10-12月期の同+2.1%から急減速しました。しかし、5月のFOMC声明ではこうした動きについて「一時的な公算が大きい」と指摘し、米国景気は緩やかな拡大が今後も続くとして先行きに楽観的な見方を示しました。その後発表された4月の雇用統計は、非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想を上回ったほか、失業率が約10年ぶりの水準に低下する等、良好な内容となりました。この結果、市場では、米連邦準備理事会(FRB)がFOMC声明で示した見方が裏付けられたとして、次回6月13日~14日のFOMCにおける追加利上げの実施をほぼ確実視する情勢となっています。

米金利先高観測がドル円の下支え要因に

市場では、年内の利上げ回数について、次回6月のFOMCも含めてあと2回程度(すでに実施された3月を含めると合計3回)を想定しています。ただ、米10年国債利回り(長期金利)は、トランプ政権が掲げる法人税減税やインフラ投資等、財政刺激策の具体化が遅れていることもあり、2%台の前半でもみ合いながら緩やかに上昇する展開となっています。FRBの利上げ観測に基づいた緩やかな米長期金利の上昇は、日米金利差の拡大見通しと相まって、今後もドル円の下支え要因になるとみられます。また、欧米株式市場においてボラティリティ(価格変動率)が大きく低下していることから、リスクをとりやすくなった投資家の資金が新興国市場に向かう可能性についても注目されます。

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