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竹内先生に聞く「行動経済学と実験経済学から経済と投資を読み解くと」前編

従来の経済理論を実験によって検証することで、経済学に “人間味”を与えた実験経済学。この理論の可能性に注目が集まり、先進的な諸外国では国をあげて研究に取り組んでいます。そこで、実験経済学の専門家である一橋大学大学院経済学研究科准教授・竹内幹先生にお話をお聞きしました。(このインタビューは2017年10月31日に行われました)

実験ベースに理論検証する それが実験経済学

――実験経済学とは、一体、どのような学問なのでしょうか。

竹内氏:名前の通り「実験する経済学」です。人に経済的な意思決定をしてもらい、その結果を観察し、経済理論と照らし合わせて検証をするものです。実験データで理論を検証するというアプロ―チは、自然科学では標準的な手法でしょう。しかし、経済学が若い学問だということもありますし、経済を実験するということ自体も難しかったので、経済学では実験による理論の検証を行わずに済ませてきたところがあったかと思います。それでも、1980年代の半ばから経済実験に基づいた論文が多数発表されるようになり、2002年には実験経済学を立ち上げたバーノン・スミス博士がノーベル経済学賞を受賞。今世紀にはいって、実験経済学は主流になったといえます。

――具体的には、どのような実験を行うのでしょうか。

竹内氏:本当に多岐にわたります。たとえば、リスクをとる人とらない人の特徴をみたり、あるいはオークションメカニズムを実験して効率性の高いオークション方式の性質を調べたりといったことがあります。私は、視線の動きをもとに人の迷う気持ちを推定したり、カブトムシを使ってゲーム理論の均衡概念の検証を行ったりしています。

 とにかく統制実験で大事なのは、効果があると見込まれる介入をするトリートメントグループと、何もしないコントロールグループを並行して走らせて、その違いを検証することです。例えば、あるワークライフバランスを重視した働き方改革が有効に働くのかを検証する際には、調査対象となる従業員全員を、その改革を適用する従業員グループとそうでない従業員グループとに、ランダムに振り分けます。グループ間の違いを調べれば、その改革自体に効果があるのか、それとも別な外的要因によるものなのかがわかってきます。対象者全員に改革を適用して、改革導入前と導入後を比較するのは良いやりかたではありません。

実験経済学と行動経済学 似て非なるもの

――実験経済学の登場によって、どのようなものが見えてきたのでしょうか。

竹内氏:これまでは経済に関する実験というのがほとんど行われておらず、その代わり何をしてきたかというと、理論体系が首尾一貫しているかどうかを検証し、そこを研ぎ澄ましてきたのですね。それはそれで非常に良かった面も多いのですが、いつの間にか理論体系全体が人間行動の実態から離れていってしまったと思います。

そもそも人間は、必ずしも論理的に経済的意思決定を行っているわけではありません。生身の人間が合理的に動くとは限らないのですが、そういった人間っぽい行動にもなんらかの法則性があるに違いないと考え、その法則性によって実験結果を説明したいという考えが生まれてきました。すなわち、数学の定理のように経済学をとらえるだけでなく、実験のデータベースを活用して経済理論を補完してみようという流れが生まれたのです。

――似たような学問では行動経済学という分野もありますが、実験経済学との明確な違いとはどのようなものでしょうか。

竹内氏:かなりオーバーラップする部分はあります。実験経済学も行動経済学も、決して理論先行型の学問ではなく、まずはデータから理論を構築するという視点は共通だと思います。ただし実験経済学はどちらかというと検証の手法なんです。人間らしい行動を知るための経済実験もたくさんある一方で、逆に、どういう条件が整えば経済学の教科書どおりの効率性が達成できるのかを分析する実験もあります。そこは行動経済学とはまったく大きく違っていますね。

行動経済学はもっと人間の心理的要素を数学的に取り込もうとしている学問です。実験経済学とは異なる部分も多いです。

実験経済学が成熟していけば、不景気になるタイミングも予測できるかもしれない

――実験経済学が成熟していくと、どのように世の中に還元されていくのでしょうか。

竹内氏:人間独特の癖は、行動経済学や実験経済学を通じて分析がすすみました。では、それらに対応した公共政策を打ち出せばいいのではという考えもありますが、もうちょっと長期的にみていただいたほうがいいです。一般的に、サイエンスとして導き出された結果が産業や政策現場に活かされるまでには、まだ多少の時間は必要かと思っています。もちろん、アメリカやイギリスでは、行動経済学や経済実験を通じて判明した人間の癖を分析して、公共政策をデザインし直すという動きが実際に始まっています。それは近い将来、日本でも起こりうると思っています。

今後も、実験経済学がさらに成熟していって、経済学の理論を補完していくでしょう。たとえば、天文学の発展を考えれば、観測技術と観測データがいかに重要であるかがわかります。理論が正しく動くようになってくれば、経済の予測ができるようになるかもしれません。ただし、忘れてはならないのは、景気と天体の運行とは根本的に異なることです。景気はそれを予測した瞬間に、経済を構成する企業や家計が反応をしはじめ、予測とは違った方向に大きく動いてしまうのですから。

それでも経済学が発展すれば、たとえば不景気になるタイミングや深度について、ある程度の予測ができるようになるかもしれない。それを事前にキャッチしておけば、少なくとも対策を打つことはできます。100年前に比べると、景気予想もずいぶん精度はあがりましたし。

>>「行動経済学と実験経済学から経済と投資を読み解くと」後編に続く

竹内幹(たけうち・かん)
一橋大学大学院経済学研究科准教授
1998年一橋大学経済学部卒業。2007年ミシガン大学Ph.D.(経済学博士)を授与。2007年9月よりカリフォルニア工科大学研究員。2008年4月より一橋大学経済学研究科の講師をへて、2011年4月より現職。Economic Inquiry 編集委員。行動経済学会編集委員。文部科学省学術調査官や法務省司法試験予備試験考査委員を歴任。

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