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「タイミング」― 兜町カタリスト櫻井英明のここだけの株話

「タイミング」

同じ銘柄を買っても、儲かる人と損する人がいます。
この差はなんなのかといえば、ひとえにタイミングの差。
このタイミングの差には、早いか、遅いかの時間軸や、
売り損ないという時間軸などがあります。
不即不離で間を測るのが極意というと剣法みたいですが、実際そうだと思います。
執着してはいけません。
さりとて、しらけていてもいけません。
適度な温度差の変化を微妙に感じるなんて神業ですが、でもそれがタイミング。
孤高を保った「人の裏」ではありませんが、「みんなで渡れば間違える」のが相場です。
「何を買うか、いつ買い、いつ売るかは投資家の仕事」とある市場関係者。
この言葉の意味は深いです。

どんなに天気予報の精度が高まっても、読めないのが風。
晴れ・曇り・雨・雪はほとんど読めるようになってきました。
温度の予想もかなり確実性を増してきました。
しかし、概ね何メートル程度の風が吹くかは読めても、いつどれくらいの強さで吹くかはなかなか判りません。
風を読むというのは、ゴルフなど多くの場面で必要なこと。
でも、なかなか読めません。
あるいは、読んでも読みどおりには吹いてくれません。
フォローと思ってアドレスした途端に、上空はアゲンストというのはよくあること。
逆に、強烈なアゲンストが、時折さわやかなフォローになることもあります。
これは、たぶんマーケットも一緒。
時間軸は別にして、風だけは悩ましいもの。
株式市場では市場の外から吹いてきますから、さらに読みにくくなります。
行ったこともない国の、見たこともない町の動きを読むのは、風の行方を予想するようなものです。

気になるのが「織り込んだ」という解釈。
株価は、もろもろの事象をふまえて形成されることは間違いありません。
しかし、マーケットで起こるのは事前に予測可能なことばかりではない筈。
それでも「織り込める」のか、妙に気になるもの。
単なる「解説不能」の免罪符という気もしてきます。
株価がそんなにたやすく「織り込める」のなら、「方向感がない」なんてことはないでしょう。
もうひとつは「見極めたい」との表現。
誰が見極めたいのか、はっきりしません。
もしも見極められるのなら、投資家さんは損などしない筈。
曖昧な言葉がさも現実感を伴って流通するから、おかしくなるのかも知れません。

確たる理由はないものの、相場は心理。
上に動けば加速の動きと足を引っ張る動きがうごめきだすもの。
下に動けば同様に加速の動きと引き戻す動きが現れます。
このせめぎあいのリズムのハザマで動くのが株価。
売りは売りを呼び、買いは買いを呼びます。
しかし、その逆ベクトルも稼働し始めます。
どちらのパワーが強いのかの見極めが必要です。
「相場はタイミングこそすべて」という声と、「相場は銘柄選択こそすべて」の声。
どちらも正しく思えるからややこしいのが相場。
株式投資で勝つ秘訣は「疑い深さと考えること」。
表面化した市場関係者中心の市場動向解釈を疑い、四六時中別のシナリオの可能性を模索し続けること。
あれこれ数字をひねくりまわしたり、紙芝居をすかして眺めるよりも、よほど役立つような気がします。
あまり疑って考え続けると、品性は悪くなるかも知れませんが・・・。

相場を語るには、まず、場を見続けねばならないといわれます。
しかし、これは結構至難のワザ。
早朝から深夜まで世界中の株価動向を眺めていたら、それだけで株病になってしまいそう。
仕事柄、日々見続けていますが、それでも完全には無理。
しかも、朝早くから仕事なので夜は見ず。
朝方の引け際のNYの動向をみることで済ませることにしています。
意外と役に立つのではないかと思われるのは「場況」。
とはいえ、新聞などで場況を熟読するということではありません。
媒体によっては、新人や素人の書いている場況も見受けられます。
所詮、誰かが言ったり書いたりしたことの受け売りばかり。
それを読んでも、ほとんど役には立たないでしょう。
そうではなくて、重要なのは自分で「場況」を書いてみること。
ブログに載せたり、ツイッターで囁くためではありません。
「場況」を書くことで、上げ下げのコメントの「変」さ加減が見えてきます。
材料の用法のずるさも見えてくるかも知れません。
そして「株価の動きの真の理由」に少し迫れるような気がしてくるもの。
これこそ「他人シナリオ」ではなく「自分シナリオ」。
ほとんどコストをかけずに、株式市場精通者になれるでしょう。
そして、見えてなかった作為や欺瞞やごまかしやすり替えが少し垣間見えた気になります。
それが投資のパフォーマンスに反映するかどうかは微妙。
しかし、常に「なぜ」や「誰が」を考えることは重要です。

「時間の空回り」

相場で重要なのは定点観測。
指標やスケジュールのチェックです。
しかし、チェックだけなら誰でも出来ます。
問題は、違和感を感じることができるかどうか。
違和感は記憶の中にある過去の数字と、現実とギャップとの遭遇の際に生じるもの。
その先のシナリオまで創造(想像ではない)できるかどうかです。
創造が難しければ、考えられるかどうか。
考え抜くことができるかどうか。
これが一歩進んだ相場観につながるものでしょう。
文芸評論家の小林秀雄氏の名作は「考えるヒント」。
「考えるとは合理的に考えるということ。
能率的に考えることが合理的に考えるということではない。
考えているつもりだが、実は考える手間を省いている。
能率的に考えるとは形式的に考えるということであり、形式的に考えるということは何も考えないのと一緒。
だから不毛の議論ばかりが横行する」。
元来が難解な文章を提供してくれた方でしたが深いもの。
結果の見えないことをあえて選んで議論するのは、時間の空回り。
この不毛の議論が好きな人は市場に限らず世間に多いようです。
結論の出ないものを時間を使って論議して、そしてまた当然結論は出ない状況。
「床屋政談」みたいに論じることが目的となったような印象。
経済学者さんなどの議論は、まさにそんな感じです。
でも、そんな議論に与するよりは、指標や罫線を眺めることの方がよいような気がします。
ちなみに、証券会社のOBさんたちからよく頂戴する言葉は「どう?」
何が「どう?」なのかがわかりませんが、とにかく古希過ぎや古希間近の方々の「どう?」。
この「どう」に、ほぼ意味はないと思った方がよいのでしょう。
きっと、何をお答えしても「そう」で終わるような会話。
常に人の意見を聞いて、自分の相場観を持たなかった方々の会話が「どう」と「そう」。
そんなことでは今の相場では戦えなかったでしょう。
それが通用していたのですから、相場も幼かったのかも知れません。

 

櫻井 英明(さくらい えいめい)
ストックウェザー「兜町カタリスト」編集長

日興証券での機関投資家の運用トレーダー、「株式新聞Weekly編集長」などを経て、2008年7月からストックウェザー「兜町カタリスト」編集長。
幅広い情報チャネルとマーケット分析、最新経済動向を株式市場の観点から分析した独特の未来予測に定評があり、個人投資家からの人気も高い。

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