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配偶者控除が廃止へ…「夫婦控除」で家計はどうなる?

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(写真=PIXTA)

「配偶者控除」が「夫婦控除に」?

2017年度の税制改正に向けた第一回政府税制調査会が9月9日に行われ、安倍首相はこれまで専業主婦世帯などの所得税負担を軽減していた「配偶者控除」の見直しを進めるようあらためて指示したのをきっかけに「夫婦控除」の導入検討に入りましたが、早くも先送りになりそうです。

専業主婦世帯や共働き世帯にとってはその動向が気になるところですが、はたして家計にどのような影響を及ぼすのでしょうか―

そもそも現行の「配偶者控除」は、どんな制度?

働いてお金を稼ぐと(=所得)、稼いだお金に応じて「所得税」がかかります。

配偶者控除という制度は、平たく言えば「無収入~年収103万円以下の給与(パート)収入しかない配偶者(多くは妻)を扶養している人は、自分一人で配偶者のことも扶養しなければならないだろうから、その分所得税を減らしてあげますよ」という制度です。この制度が導入されたのは1961年ですが、当時は「世帯の税負担能力に配慮」「専従者控除がある自営業世帯とのバランス」「サラリーマン妻の家事労働などの内助の功」を主な理由として導入されました。

配偶者控除の対象となる世帯であれば、扶養される側は所得税を納める必要がありませんし、社会保険料を払わなくても国民年金の第3号被保険者となることができます。

よく「年収103万円以下なら控除」が受けられると言われていますが、税法上は「合計所得金額が38万円以下」が控除の対象と書かれています。

なぜそれが103万円になるかというと、所得税の対象となる所得は、働いて得た収入からかかった経費を引いたものとされていて、サラリーマンの場合の経費は、自営業の経費と異なり、収入に応じて自動的に計算され控除されることになっています。収入が少ない場合(161万9,000円以下の場合)はすべて、経費が“65万円”で計算されることになっており、年収103万円-経費(=給与所得控除)65万円=38万円(=合計所得金額)となるため、年収が103万円を超えなければ合計所得金額が38万円以下となるので、配偶者控除が適用されます。

配偶者控除が適用されると、扶養している側の所得から38万円が控除されて、その分税金が軽くなるというわけです。(日本の所得税は、所得が多いほど税率が高くなる累進税率であるため、所得の少ない人より所得の多い人のほうが配偶者控除の適用による減税額は多くなります。)

このような税のしくみ制度のため、年収が103万円を超えると、夫の税金が高くなる! として働きかたをセーブしているパート等の主婦が多いようです。(これがいわゆる“103万円の壁”というものですね)

ただし、年収が103万円を超えた瞬間に控除がなくなってしまうわけではなく、配偶者特別控除の制度があり年収が141万円までは、段階的に控除額が減っていく仕組みになっています。

図1

「男は外で仕事、女は家事」の構図に変化…制度が時代に合わなくなってきた?

配偶者控除が導入された高度経済成長期は、夫が“一家の大黒柱”となって家族を扶養し、妻は専業主婦になり家事・育児・介護労働などで支えるというのが大多数の夫婦の役割分担でしたが、時代は変わり、外に働きに出る女性が増え、結婚して子供がいても共働きという世帯が増えてきました。

現状、家計を助けるため妻が扶養から外れて働き、控除を受けられない世帯が増える一方で、配偶者控除の適用を受ける世帯の多くが「高所得者世帯」だという事実があり、税の公平性に欠けているのではないかと指摘されています。

また、少子高齢化で働き手不足が深刻化するなか、これまで配偶者控除を受けるために能力があるのに働くことをあえてセーブしていた専業主婦などの労働力にスポットが当たるようになりました。

このような時代の変化を背景に、税負担の不公平感解消と女性の就労拡大をめざして「配偶者控除」の制度自体の見直しが議論されることになったのです。

政府が検討している「夫婦控除」で何が変わる?

現在政府が配偶者控除にかわる新しい制度として検討しているのが「夫婦控除」と呼ばれる制度です。これは、妻の年収にかかわらず夫婦世帯は控除を受けられるようにし、働き方をセーブしていた人々が103万円の壁を気にせず働けるようにしよう・夫婦で子育てをする人に対して税の面で優遇しようという試みです。

夫婦世帯に対して具体的にいくら控除するのかということはまだ検討段階ではありますが、「パートの収入を年収103万円に抑えていたけれど、もう少し稼ぎたい」という主婦や、夫婦二人で頑張って働いているのに今まで控除を受けることができなかった共働き世帯にとっては、手元に残るお金が増えるようになるため、うれしい改正になるかもしれません。

高所得世帯は負担増の可能性も

しかしながら、政府としては控除の対象となる世帯が増えると税収が減ることになってしまいます。ただでさえ国の財政は厳しい状態であるので、そう簡単に税収が減るだけの改正はしないはず。実は、夫婦世帯であっても今後負担が増えるかもしれない人たちもいるのです…。

新しい夫婦控除では、よりお金に余裕のあるとされる高所得の世帯の控除を無くすことが検討されていて、そのボーダーラインが年収800万円になるのか、それとも1,000万円になるのか、これから調整していくことになりそうです。

たとえ高所得世帯であっても、配偶者の病気のため働きたくても働けない状態だったり、親の介護をしていたりと働けない事情はさまざまです。このような世帯に対しても画一的に負担増となってしまうため、慎重な制度改定が求められます。

事実上の“独身税”? 公平な税負担の実現は難しい

「夫婦になれば、税が優遇される」ということを、逆にいえば「独身は税を多く納める」ということになります。これもまた、不公平なのではないかとする考えもあります。かといって、独身者が結婚するようになって、少子化に歯止めが…なんていううまい話には簡単にはなりそうにはありません。

個々の税負担能力がさまざまであるなかで、すべての人にとって公平な税負担を求めるのはなかなか難しいことです。それでも、格差が広がりすぎないようその時代の人口や働きかたに合わせて制度を見直していく必要があるでしょう。

2017年度の税制改正での導入は見送ったものの今後近い将来、配偶者控除は廃止され、夫婦控除等の導入が検討されるとみられるため、それを見据えて「夫婦世帯の働きかた」をあらためて考えてみる必要がありそうです。

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