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岩下直行教授に聞く「FinTech-金融×ITがもたらすイノベーションとは-」前編

ITの進化にともない、加速度的に発展を続けるFinTech。現時点における日本、そして諸外国のFinTech最前線は、いったいどのような状況にあるのでしょうか。

今回は、日銀FinTechセンターの初代センター長を務めた後、京都大学・公共政策大学院の教授としてご活躍されている岩下直行先生に、全4回にわたり、“FinTechの現在”を語っていただきました(このインタビューは2017年8月29日に行われました)。

日本と欧米のFintechの違い

――まずは、日本と欧米のFinTech事情の違いからご教示ください。

岩下氏:2015年12月に発売された週刊エコノミストのフィンテック特集号の表紙は、当時の銀行関係者に大きな衝撃を与えました。”FinTech”と書かれた巨大なサメが、石造りの”Bank”と書かれた建物を打ち壊し、海に沈めている図だったからです。当時、FinTechは伝統的な金融機関を危機に追いやるというイメージがありました。その意識はアメリカからきています。当時、ある大手金融機関の頭取が“Silicon Valley is coming.(シリコンバレーがやってくるぞ)”という警句を発していました。

実際、米国シリコンバレーに登場したFinTech企業は、銀行に対して相当なインパクトを与えました。シリコンバレーにはさまざまなFinTech企業がありますが、特にレンディング、=“お金を貸すこと”と、ペイメント=“お金の決済をすること”という銀行の2つのコア業務に、FinTech企業が参入していきました。実際に銀行のさまざまなビジネスにおいて、FinTech企業と競合し、収益機会が奪われるということが、米国において発生したのです。

たとえば、PayPalという会社があります。PayPalは、シリコンバレーにおけるFinTech企業の原点ともいえる企業の1つです。ちなみにPayPalの創業者は後に、YouTube、LinkedIn、テスラモーターズを立ち上げました。インターネット上でメジャーになったサービスは、実はこの PayPalから生まれたといっても過言ではありません。

PayPalが提供したのは、売り手と買い手を橋渡しして、決済代行するというサービスです。クレジットカード番号をPayPalにだけ教えれば、PayPalは売り手に対してお金を払ってあげますよという仕組みを作りました。この仕組み自体は、1990年代からよくあるタイプの決済方法だったのですが、PayPalが凄かったのは、この後、“PayPal経済圏”を作ったことにあります。

PayPalを使用するためには、銀行から送金をする必要があります。銀行の預金を、クレジットカードで売り手に送るわけですよね。その売り手は、お金をPayPal上の帳簿から銀行の口座に移しますが、PayPalが信用できれば PayPalの中に残しておいてもいい。帳簿に残したまま、今度は自分がお金を払うときに使用する。銀行に戻すときには手数料がかかりますが、PayPalの中で完結するならば必要がない。なので、“PayPalは無料です”とうたったのです。

逆に考えれば、なぜ銀行は有料なのか?

銀行には本支店があってデータセンターがあり、それぞれの間を専用線で結んでいます。それぞれに専用端末や巨大なコンピューターを置いて、プログラムを開発して定期的にメンテナンスをする。ATMの設置もしなくてはなりません。そのすべてにお金がかかっていますよね。

ところがPayPalは、ATMも本店も支店も持っていません。PayPalにとってのATMはスマホです。通信回線も全部インターネットなので、PayPal自体はお金を払っていないのです。要するにPayPalは、銀行のサービスを、インターネットを利用して無料に作り変えたことで、インターネットを使って銀行業を再発明してしまったのです。

お金を貸す世界で起きているイノベーション

“お金を貸す”という業務にも同様のことが起こっています。レンディングクラブというFinTech企業がありますが、融資残高が年々、ものすごい勢いで増えています。

レンディングクラブは、お金を貸したい人と借りたい人をマッチングするサービスで、借りたい人のクレジットランクによって金利が設定されています。要するに、クレジットランクが高ければ安い金利が適用され、低ければ25%という高い金利で貸してあげますよという仕組みなのです。

これまでは指定銀行に預金していた人だけがお金を借りることができたのですが、直接貸してくれる人から借りるようになる。そうすると、借りる人は銀行から借りるよりも安い金利で借りられるし、貸す人は銀行に預けるよりも高い金利で運用できるのでwin-winの関係になります。その結果、ただ銀行のビジネスだけが減ってしまうという、そんな現象が起こったのです。

FinTechというのは、インターネットが変えた金融なんです。

インターネットがなかった時代は、今の銀行の大手のシステムがそうであるように、専用のシステムを自分で一生懸命作って、自分が所有するデータセンターの中で管理する必要がありました。すごくお金がかかっていたので、大企業が策定する長期プランによってしか実行できなかったのです。

ところがインターネットが登場して、クラウドを活用するようになり、かつオープンソースでさまざまなサービスが提供されるようになりました。ちょっとしたアイデアと少しのお金さえあれば、アクティブユーザーを1万人、5万人と獲得できる時代になりました。自分で一生懸命システムを作る必要がなくなったのです。

金融に必要な最低限のセキュリティも、既存のサービスを組み合わせれば可能となり、大手企業が長期計画を立てなくてもビジネスが実行できるようになりました。“銀行の業務とはこういうものだ”という従来の固定概念にとらわれることなく、さまざまな金融ビジネスにトライできる実験場ができたととらえることができます。

当然実験場ですから、すべてがうまくいくとは限りません。たまたま勝ち抜いたものだけが生き残る、それが実験場です。

FinTechも、インターネットによっていろいろな可能性が爆発して起こった進化論としてとらえるならば、今は多種多様な生物が一斉に生まれたような時代です。その中から生き残るのはほんの一部、ほんの一部が生き残ったら、それはとっても強い生物になってその次の時代をリードしていくという時代になるだろうと思います。

FinTech進化論とはどういうことか

――FinTech進化論というたとえは、大変興味深いですね。今は、まさに変動期のさなかということですね。

岩下氏:今は、古い時代の金融から新しい時代の金融に徐々に移りつつあります。去年、今年と2回連続して銀行法が改正になりましたよね。

FinTechによって金融業界にこれだけ大きな変化が起こっていますから、規制当局としては放っておけないと考えたわけですよね。従来の銀行業を続けていたら滅んでしまうかもしれないという恐れを感じ、新しいことにチャレンジできるような環境を作ろうとしたのでしょう。

実は日本では、アメリカのような既存金融機関とFinTech企業との間の軋轢は生じませんでした。

アメリカの主なFinTech企業は、融資や決済とか伝統的な銀行と競合する領域でビジネスを展開していましたが、日本ではそのどちらも規模は大きくありません。この分野は日本の場合、銀行がしっかりしているので日本のお客さまは不満を持っていないのです。

ところが伝統的な銀行と連携していくサービス、たとえば、パーソナルファイナンシャルマネジメントや会計のサポートであるとか、このような領域については日本のFinTech企業が強い現状です。

「マネーフォワード」「freee」「お金のデザイン」など、さまざまな企業が参入し、日本のFinTechというと、銀行がこれまであまり強くはなかったスマホ上で展開する新しいサービスが中心となりました。お互いをフォローする、FinTech業界と銀行の協力関係は非常に良好なのです。

>>岩下直行教授に聞く「FinTech~金融×ITがもたらすイノベーションとは~」 後編に続く

岩下直行(いわした・なおゆき)
京都大学・公共政策大学院教授 PwCあらた有限責任監査法人 スペシャルアドバイザー
1984年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本銀行入行。1994年7月、日本銀行金融研究所に異動し、以後約15年間、金融分野における情報セキュリティ技術の研究に従事。同研究所・情報技術研究センター長、下関市店長を経て、2011年7月、日立製作所へ出向。その後、2013年7月、日本銀行決済機構局参事役。2014年5月、同金融機構局審議役・金融高度化センター長。2016年4月、新設されたFinTechセンターの初代所長に就任。2017年3月、日本銀行退職。同年、4月より現職。

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