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世界各地の選挙動向

(写真=kawamura_lucy/Shutterstock.com)

日本の総選挙

安倍首相は9月28日召集の臨時国会で衆議院を解散し10月22日に総選挙を実施することを決定しました。これまでの経済重視路線継続のほか、北朝鮮への圧力強化、2019年10月の消費増税を財源にした教育無償化などの諸政策につき国民に信を問おうとしています。勝敗ラインは「与党で過半数」。自公の現有323議席に対し、233議席(今回定数465議席)の確保をめざすことになります。安定多数244議席、絶対安定多数261議席、3分の2は310議席となっています。

株高となる傾向

日本の解散・総選挙をめぐっては、過去の経験則から解散から投票日直前にかけて株価が上昇する傾向がみられています。1990年以降、過去9回の衆議院解散・総選挙前後の日経平均株価とドル円の動きをみると、解散から投票日直前までの騰落は日経平均株価が8勝1敗、ドル円が4勝5敗(円安が勝ち、円高が負け)と株価の上昇傾向が鮮明です。日経平均株価の平均騰落率は+3.2%、うち過去4回では負けなしで平均騰落率は+6.2%を記録しています。一方、ドル円相場は、上昇、横ばい、下落などそれぞれの局面がみられており、法則的な動きは見られていません。ただ、アベノミクスを掲げる安倍政権が絡む直近2回の選挙は選挙後円安方向の動きとなりました。また、過去とは違い、今ではリスクオン=円安の傾向が強くみられることから、株価が上昇するなら円安になる可能性が大きいと言えるでしょう。

NZ総選挙、弱小政党がキャスティングボートを握る

NZでは9月23日に総選挙が行われました(定数120、過半数61)。簡単にまとめると与党第1党の国民党が議席を減らしながらも第1党を維持(58議席)しましたが、過半数割れ。一方で野党第1党の労働党が票を伸ばしましたが(45議席)こちらも過半数には届きませんでした。結果、ポピュリズム的な主張を行う小政党2党、反米で捕鯨に強く反対している「緑の党」(7議席)や反移民を掲げる「NZファースト党」(9議席)にキャスティングボートを握られる状況となってしまっています。ただ、過去に政権を担ったこともある国民党と労働党の獲得議席がほとんどであり、政権成立には時間がかかるかもしれませんが、結果としては経済やNZドルへの影響は限定的にとどまるとみられます。

フランス上院選挙の影響は限定的

9月24日に行われたフランス上院選挙ではマクロン大統領率いる「共和国前進」は議席を減らし、最大野党の共和党が第1党の座を維持しました。しかし、1.「共和国前進」は予算など法案優先権を持つ下院で過半数を握っていること、2.フランス上院選挙は地方議員などが投票を行う間接選挙であるため後発の「共和党前進」にとっては最初から不利な選挙であったこと、などから今回の選挙がフランスの国政や経済に与える影響は限定的とみられます。

ドイツ総選挙、連立には時間がかかる可能性

9月24日にはドイツでも総選挙が行われました。これまで連立を組んで政権を担ってきた第1党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と第2党社会民主党(SPD)がともに議席を大きく減らした一方で、反EU・反移民・反イスラムなど極端な主張を行う新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が改選前の議席ゼロから94議席を獲得して第3党に躍進しており、移民問題などの根深さを示す形となりました。
とはいえ、メルケル首相率いる「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」が第1党を維持しており、今後政権成立を目指す連立模索が始まります。現状を整理すると、

1. 極端な主張の「ドイツのための選択肢(AfD)」と、旧東ドイツの独裁政党だった「左派党」は連立対象外
2. これまで連立を組んでいた「社会民主党(SPD)」は今回連立を組まないと表明
3. 結果、残る「自由民主党(FDP)」と「緑の党」と3党連立ができれば過半数に達するが、公約等掲げる政策の差が大きい
4. 今回連立は組まないとしている「社会民主党(SPD)」は過去も連立に後ろ向きだったが、ドイツの国政安定のため連立を受け入れていた経緯もあり、行き詰まればまた連立を組む可能性は残る
5. 上記3.と4.の選択肢が厳しければ再選挙の可能性もある

という状況。連立成立まで数ヵ月を要することは過去にもよくあり、また、10月半ばに地方選挙を控えていることなどから、答えが出るのは早くて年末になるとみられます。しかし、上記の通り、議席は減らしたとはいえ、これまでの第1党と第2党が選挙後もそれぞれ第1党・第2党であり続ける構図であり、「経済やユーロの動向に影響を与えるほどの混乱」という状況にはならないとみています。

根深い反EU、反移民問題と欧州分断リスク

ただ、懸念されるのは前述の通り反EUや反移民といった問題の根深さです。昨年の英国によるEU離脱決定以降、欧州の分断が世界経済のリスクとなりましたが、今年前半のフランス大統領選挙で反EU候補が敗北し、統一推進を唱えたマクロン大統領とマクロン大統領率いる「共和国前進」が圧勝してからはその警戒感が後退していました。しかし、10月1日にはスペインでバルセロナなどの都市を擁するカタルーニャ自治州がスペインからの独立を問う住民投票を行い9割以上がこれに賛成、カタルーニャ自治州は今後独立を宣言するとしており、スペインが強く反発する事態となっています。今後、10月15日に予定されるオーストリア総選挙や、来年5月までに実施予定のイタリアの総選挙にこのような分断の流れが波及すれば、経済やユーロにも波乱要因となる可能性があることから、注意が必要です。

クルド人問題、沈静化できるか

9月25日、イラク北部のクルド自治区(KRG)で独立を問う住民投票がおこなわれました。当のイラクは当然反対しましたが、それだけではありません。米国も地域を不安定化させるとして「支持しない」と表明、KRGと国境を接するトルコのエルドアン大統領も「制裁を科す可能性がある」として国境近くで威嚇の軍事演習を行いました。サウジアラビアやイギリス、フランスも慎重な対応を要請、ロシアも難色を示すなどまさに世界中から反対されるなかでの投票実施となりました。なぜここまで世界中が反対するのでしょう。それは、中東国家の混乱につながる可能性があるからです。クルド人は少数民族ではなく、3,000万人以上いるとされています。もともとはオスマン帝国内の「クルディスタン(クルド人の国)」と呼ばれる地域にいましたが、第1次世界大戦後オスマン帝国の衰退とともに西側の都合で国境線が引かれ、クルディスタンはトルコ、イラク、イラン、シリアなどに分割されてしまいました。ここでイラクのクルド人自治区が独立し、これに各国に分断されたクルド人たちが合流すれば大きなうねりとなり、チュニジアのジャスミン革命をきっかけにエジプトやシリア、ヨルダンなどの長期独裁政権が数ヵ月の間にドミノ倒し的に崩壊したいわゆるアラブの春のような事態になりかねません。

KRGの住民投票では9割以上が独立に賛成したとされています。しかし、この住民投票は法的な効力を持っていないうえ、イラクもその結果を受けて独立を認めるとは思えません。また、分断されているクルド人同士が必ずしも同じ意見であるとは限らず、中には対立もあるようです。今回の動きがクルド人独立にむけた大きなうねりとなるかどうかは現状不透明。問題が拡大すれば地域の不安定化や原油価格の上昇などを通じて世界経済や為替へ大きな影響を与えることになりかねません。

不透明要素の行方に注目

これまで述べてきたとおり、ここのところ選挙に絡むトピックスがたくさんありました。しかもそれぞれに不透明感を抱えています。日本の総選挙では現与党の勝利がメインシナリオであるものの議席は減少するとみられるなか、それがどの程度かが重要となるでしょう。ドイツではメルケル首相の続投が決まると思われますが、連立に不透明感があり、またカタルーニャ自治州住民投票でもみられた分断や反移民の流れが10月15日のオーストリア総選挙、来年5月までのイタリア総選挙に波及するかには注目です。クルド人の問題が今後拡大するかどうかも見守る必要があるでしょう。これらの不安が複数現実化すると、世界経済の混乱につながる可能性があり、注意が必要です。

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