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斉藤賢爾先生に聞く「『不思議の国のNEO』から読み解く、未来におけるお金のあり方と私たちの暮らし」前編

ブロックチェーン、ビットコイン、フィンテックなど、近年、お金にまつわるテクノロジーの進化には目覚ましいものがあります。そのような状況において、お金の概念および私たちの生活は今後どのように変わっていくのでしょうか。

分散システム、リアルタイムシステム、インターネットと社会がご専門の慶應義塾大学の斉藤賢爾先生にお話をうかがいました。(このインタビューは2017年10月12日に行われました)

お金の仕組みは変えられる

――ご著書である『不思議の国のNEO』について、その概要と執筆された背景について教えてください。

斉藤氏:『不思議の国のNEO』は、私がはじめて一人で書いた書籍です。当時、私は博士号をとったばかりでした。その研究テーマが「デジタル通貨」、とくに「地域におけるデジタル通貨の応用」というものだったのです。

そのような研究テーマについて、あるいはその内容について、子どもたちでも理解できるようにまとめられたらと思い、ストーリー仕立てで書いたものが『不思議の国のNEO』となります。

実はこの物語には前編があります。慶應義塾大学環境情報学部教授の村井純氏と一緒に作った『インターネットの不思議、探検隊!』です。その書籍と同じ設定で、お金とインターネットについて書いたものが本書となります。

本書における“不思議の国”では、インターネットが極限まで活用されています。そのような国(地域)で、お金はどのような形をし、機能しているのか、本書ではそのような社会をシミュレーションしているのです。

そもそも、通貨だけを切り取って研究することはできません。通貨は社会との兼ね合いもふまえて、どのようにデザインされるべきなのかを考慮する必要があります。例えば、環境やエネルギー問題なども含めてです。

逆にいえば、社会に存在するさまざまな諸問題の根本には、お金の仕組みが絡んでいます。そのような観点から、お金の仕組みを変えることで社会がどのような影響を受けるのかということを考えるのが、本書のテーマでもありました。

最も先鋭化したお金「ビットコイン」

――本書を出版された当時(2009年)、先生としてはどのような課題感をお持ちだったのでしょうか?

斉藤氏:資本主義社会が先鋭化するにしたがい、住みにくい状況が生まれつつあると感じていました。子どもたちにとってもあまり良くない影響がでようとしているのではないか、と。それは今でもあまり変わっていません。

そのような懸念があるなかで、私としては「お金の仕組みは決まったものではなく、変えることができる」というメッセージを本書に込めています。これからの未来を担う人たちに、お金の柔軟性について伝えたかったのです。

ちょうどビットコインが誕生したのが2009年でした。また、2011年にはリーマン・ショック以降のアメリカ経済に対する抗議運動が活発化し、「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」などのデモも起こっています。私たちは改めて、お金と向き合うべき時期だったのかもしれません。

ただ、もともとビットコインというものは、お金が最も先鋭化した姿にすぎません。本質的にお金は信用の代わりであり、だから通貨として使えるわけですが、その極限の形がビットコインなのです。すでに世界中で使えますよね。

同じお金でも、日本円であれば使えない国もあります。その理由は、特定の国(日本円なら日本国)の信用はある一定の枠を越えて外にでられないと考えられるからなのですが、ビットコインは容易にその枠を飛び越えてしまっているのです。

「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」のような運動があったのにも関わらず、ビットコインのようなものが生まれて、さらには世界中で普及している。そのような状況は、ある意味において皮肉だといえるでしょう。

お金の信用と個人の信用

――お金に対する信用に対して疑念が生じつつある社会において、ビットコインが普及したのはなぜだとお考えですか?

斉藤氏:ビットコインを特徴づける言葉に「トラストレス(trustless)」というものがあります。つまり、信用のおける第三者を必要としないという意味ですね。それがビットコインの良さであると認識されているわけです。

しかし、ビットコインの仕組みの中にトラストがまったくないということはあり得ません。むしろ、使用する人が善意で行動するといったことがあらかじめ盛り込まれたうえで、ビットコインは設計されているのです。

それにも関わらず、なんとなくビットコインはトラストレスのようにみえてしまう。通貨における信用という概念がないようにみえるために、これからのお金のあり方として認識され、人気を博しているのだと考えられます。

例えば、中国では近年、キャッシュレス化が急速に進んでいます。その結果、個々人の経済活動がデータとして集約され、個人の信用レベルについても割り当てる企業が登場しているのです。

そのようなことが広がっていくと、提供されるサービスの幅が個々人で異なったり、ゆくゆくは旅行できる範囲が制限されたりするなどの可能性もあります。個人の信用レベルによってできることが限られた、窮屈な社会となってしまうかもしれません。

信用レベルによって行動が制限される社会において、人は、エシカルな(倫理的な、社会貢献のような)行動をとるようになるでしょう。ただそれは、究極的な因果応報の世界でもあるといえます。ビットコインの概念も、それに近いものなのです。

果たしてそのような社会は生きやすいものなのでしょうか。お金に対する信用を個人の信用に置き換えただけで、あるいはとても生きづらい社会だとも考えられます。本来は、そのようなことも考慮してお金と向き合うべきなのです。

お金が一番という社会は世知辛く、そうかといって個人の信用で判断される社会もまた生きづらい。これからは、そのどちらでもない社会をつくっていかなければならないと思います。そもそもお金というものは、変えられるものなのですから。

>>斉藤賢爾先生に聞く「『不思議の国のNEO』から読み解く、未来におけるお金のあり方と私たちの暮らし」後編に続く

斉藤 賢爾
慶應義塾大学SFC研究所上席所員・環境情報学部講師(非常勤)、早稲田大学大学院経営管理研究科講師(非常勤)、一般社団法人ビヨンドブロックチェーン代表理事、一般社団法人アカデミーキャンプ代表理事。
1993年コーネル大学より工学修士(コンピュータ・サイエンス)。2006年慶應義塾大学より博士(政策・メディア)。日立ソフト(現 日立ソリューションズ)、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師等を経て現職。
著書に『未来を変える通貨 ビットコイン改革論』(インプレスR&D)、『インターネットで変わる「お金」 ビットコインが教えたこと』(幻冬舎ルネッサンス新書)など。

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