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中村仁先生に聞く「日本のポップカルチャーを産み出す産業とは」後編

前回のインタビューでは、ポップカルチャーの定義や、日本のファッション、およびコンテンツ産業の現状について、興味深いお話をうかがいました。その後編にあたる今回は、日本のポップカルチャーの未来について、引き続き日本経済大学の准教授で、大学院クリエイティブ産業研究所長の中村仁先生にご教示いただきます(このインタビューは2017年11月9日に行われました)。

>>中村仁先生に聞く「日本のポップカルチャーが生み出す産業とは」前編はこちら

店同士が戦いながら共存、協力する流行の最先端の街 それが渋谷

――先生が研究のテーマとされている渋谷と秋葉原の街、それぞれの特徴はどのようなものなのでしょうか。まずは渋谷についていかがでしょうか?

中村氏:渋谷はアパレル産業が集積し、「流行のどのあたりでビジネスをするか」を考える傾向が強いです。例えば、あるジャケットが売れたら、あっという間にいろいろな会社が同じスタイルのジャケットを出します。しかし、ちょっと裏側にはディープな、ロイヤリティが高いショップがあちこちにあります。

――面白いバランス感覚ですね。どうしてそういった現象が起こるのですか?

中村氏:それは、好みが細分化されているからでしょう。いろいろな会社が同じようなものを出していてもブランドごとのテイストがあるので、そこで好みが微妙に分かれます。みんなが着ているという安心感と、同じような商品だけれども、少しずつ違うから、それで個性を表現するという感覚なのでしょう。

原宿まで足を延ばすと、コムデギャルソンのように、徹底的に自らが産み出したデザインで商売しているショップも出てきます。しかし、渋谷はあくまで今の世の中の流行をビジネスにする街です。原宿は、同じように流行を売ってはいるけれども、自ら発信する流行を売ろうとする街です。

ブームが終わっても、ファンを獲得していれば残り続ける街 それが秋葉原

――一方の秋葉原はいかがでしょうか。渋谷とは異なる特徴があるのでしょうか

中村氏:秋葉原は渋谷とは異なり、扱う商品はかなりバラバラです。しかし、アパレルほど商品に多様性があるわけではありません。例えば、アニメやゲームのパッケージは原則どこの店で買っても同じです。しかし、そもそもたくさんのジャンルが集まっています。ラジコン、無線、オーディオ、電子パーツなど、さまざまな種類のホビーに関する商品がなんでもあります。

また、秋葉原はブームが終わっても、そのまま残っていることが多いのです。近年だとメイドカフェがそれに当たるでしょうか。また、ブームにあわせて新しいビジネスが産まれます。

秋葉原は次々新しいものが産まれては流行って廃れていきます。しかし、熱狂的なファンがついている店などはずっと営業しています。ここでは本当にマニアックなものこそが残っています。真空管屋さん、ラジオパーツなど、他にはない専門店ほど、この街で生き残っていくんです。面白いですよね。

何かを始めるという共通項を持つ街 渋谷と秋葉原

――渋谷と秋葉原、全然違う街なのですね。共通しているところはありますか。

中村氏:ありますね。それは、何かを始めようと思ったときに、どちらにも小さな店から参入できるチャンスがあることです。ただ、渋谷は流行に乗らないと成立しません。一方、秋葉原はマニアックな店を置くには最適です。秋葉原の場合は、マニアックなターゲットのビジネスはまずビルの上の階で店を構えるんですよ。ビルの上の店というのは、わざわざそこを目指してくる顧客しか来ません。そのうち顧客が増えてくると、下の階に拡大したり、別店舗を持ったりするという流れですね。

秋葉原はマニアックであること、渋谷はその時の流行に乗っていることなのかどうかを考えて進出・展開することが重要であると感じます。

世界の高級ブランドにも起用 日本のコンテンツは世界でも通用する

――ポップカルチャーが浸透したことで、どういう業界に波及していきましたか?

中村氏:トヨタのCMにドラゴンクエストが起用されたり、またルイ・ヴィトンの広告にファイナルファンタジーのキャラクターが起用される時代がついにきました。正直なところ、少し前まではまったく考えられなかったことです。

全世界の人々が知っているものって何だろうと考えたときに、日本のキャラクターはとても強力です。日本のアニメも浸透し、海外に進出しているキャラクタービジネスは数知れず。全世界に宣伝しようと思ったらチャレンジする価値はあると判断したのでしょう。

――日本のゲームだからということではなく、日本のコンテンツがすでに世界で使われていて、馴染んでいるから採用されたということですね。

中村氏:そうです。世界の人々が共通で知っているものって何だろうかという観点で考えると、ファイナルファンタジーなど日本のコンテンツは特筆すべき知名度です。

――高級なブランドイメージよりポピュラリティを重視したということでしょうか?

中村氏:ルイ・ヴィトンにゲームキャラクターというのは異色だと違和感を覚える人はたくさんいると思います。しかし、ブランドとしてはヨーロッパからの発信で、現地ではこれこそがクールなんだと流れてきたら、それに影響を受ける人たちは間違いなくターゲットになるということです。

――今後、日本のポップカルチャーはどうなっていくと思われますか?

中村氏:日本のポップカルチャーは、世界中の多くの人達が知っているからこそ活用されています。

これがもっと二次利用されて広がると思います。昔はたくさんマンガが売れた、たくさんゲームが売れたというだけで良かったのかもしれませんが、今では二次利用によるロングテールの部分の収入もかなり重要です。

――二次利用されて拡散されていくという観点おいては、どういうものが受けるのでしょう?

中村氏:それが読めたら私もそういうビジネスを手がけているんじゃないかなと思います。でもひとついえるのは、やはり見たことがないものは絶対売れません。露出を増やす努力は絶対に必要です。

これは国内でも海外でも同様です。作品であれば、続きを読みたい、同じ作者の別の作品も読みたいなどと思わせる必要があります。アパレルもこのブランドで他の服も着たいなって思わせるには、いろいろ見てもらう必要があります。

日本発、日本発と強くアピールするよりは、さまざまなコンテンツをまず世界中の人々に見てもらうことできっかけをつくり、そのなかで選ばれるかどうかでいいのではないかと思うのです。また、たくさんの作品を産み出せる環境は大切だと思います。

何がいつ当たるか、誰にも分かりません。だから、新たな作品が産み出される環境が維持されることがとても重要だと思います。

中村仁(なかむら・じん)
日本経済大学大学院経営学研究科准教授・大学院クリエイティブ産業研究所長
2001年宇都宮大学農学部農業経済学科卒業。2004年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。2013年東京工業大学より論文により、博士(学術)取得。東京大学大学院情報学環特任講師を経て現職。
著書に『クリエイティブ産業論』(慈学社出版)がある。

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