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野口悠紀雄氏に聞く「人口減少に直面する日本に新テクノロジーが与える影響とは」後編

2017年6月に日本銀行が公表した「2017年第1四半期の資金循環(速報)」によると、2017年3月末時点での日本の家計金融資産は1,809兆円となっており、現預金の割合は50%超、他国と比較しても現預金率が高くなっています。どうして日本人の投資マインドが低いのか、どのように投資と向き合っていくべきなのでしょうか。

1980年『財政危機の構造』でサントリー学芸賞、1992(平成4)年『バブルの経済学』で吉野作造賞を受賞、『「超」整理法』『「超」勉強法』など数々のベストセラーでも知られる。最新刊に新潮選書『世界史を創ったビジネスモデル』。など、数多くの執筆をされている早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏にお聞きしました。(このインタビューは2017年7月7日に行われました。)

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家計金融資産,人口減少,投資マインド

世界と日本との投資マインドの違いとは

世界と比較しても日本の現預金比率は高いと言われています。また、他国と比較しても投資マインドが異なると言われます。これはどうしてでしょうか。

――アメリカが13.9%、ユーロエリアで34.6%に対して、日本の現預金率は52.3%と非常に高い割合を占めています。どうして、ここまで大きく差が開いているのでしょうか。一般的には投資に対するマインドの違いだとも言われていますが、先生のご見解をお聞かせください。

野口氏:現預金の保有率が高いのは事実ですが、これは“日本人がリスクをとりたがらないから”という理由ではなく、日本の金融構造の問題だと思います。企業が資金調達するときには直接金融と間接金融という二つの手法があります。直接金融は企業が直接的に資本市場から株式や社債で資金調達をするもの、そして間接金融というのは、家計が預貯金を銀行に預け、それを銀行が企業に貸し出しをするという仕組みです。

戦後の日本は、典型的な間接金融になっています。この構造自体、アメリカと比較すると非常に対照的です。つまりアメリカの場合、企業が直接金融で資金調達しますから、それを反映して個人の家計資産の中でも、比較的にリスクのある資産の比率が高くなっています。日本が、昔からこのような状態であったかというと、実はそうではない。これは先ほど、地方の経済格差についてご説明したように。戦前の日本ではですね、直接金融の比率が高かった。アメリカ的な金融の仕組みだった。いつ変わったかというと戦時中です。1940年代です。

なぜそうなったかというと、戦時総力戦を遂行するために資源を軍事産業に集中させる必要があって、そのために金融構造を意図的に変えた。先ほど「1940年体制」と言いましたが、財政面においては中央集権型になり、金融面でいえば間接金融から直接金融へと非常に大きな転換が行われたのです。
ですから、日本人の投資を増やせますかという質問に対しては、変えるためにはこの仕組みを全部変えなくてはいけませんねと回答するしかないのです。

――国民性や投資マインドの問題という、単純な話ではないということですね。

野口氏:リスク志向の問題ではないし、ましてや国民性などまったく関係ない制度の問題です。日本人がリスクを回避して、アメリカ人はリスクが好きだというようなことはまったくない。日本人でも株式持っている人はたくさんいますし、この数年間、株式投資を増やした人もたくさんいると思います。増やしたけれども量的にそれほど大きくないということです。

日本が貯蓄から投資へ向かう時にとるべき対応とは

日本人の意識を貯蓄から投資へ向かわせるためには金融制度を変更する以外ないのでしょうか。一方、海外では投資をしてもらえるような環境になっているようです。

――金融制度がバイアスになって、日本人に現預貯金が投資に向いていかない、ということは理解できました。ところが私たちには世の中の制度を変えるような力はありません。もう仕方がないとあきらめるしかないのでしょうか。

野口氏:投資をするというよりも投資をしてもらえるような仕組みや産業を興すことのほうが重要ではないでしょうか。先ほど、シリコンバレーのことをお話しました。シリコンバレーが成長した背景には、リスクのある事業に対して投資をする仕組みがあった。シリコンバレーで発展した事業は非常にリスクが高いスタートアップ企業やベンチャー。従来の仕組みではなく、まったく新しい仕組みが、すなわちベンチャーキャピタルが出資をしたわけです。GoogleもAppleもYahooも、すべてそうです。ベンチャーキャピタルという仕組みが生まれ、そしてある程度まで成長してIPOを行う。そういう仕組みがあったからこそ成長した。さらに申しますとね、実はもっと新しい仕組みが登場しつつある。それはICOというものです。

先ほどお話したIPOというのは、例えばGoogleがベンチャーキャピタルから出資を受けて、ある程度成長したら株式を公開する、イニシャル・パブリック・オファリングという手法です。それに対して、ICOはイニシャル・コイン・オファリングの略で、Cはコインです。コインはどういうものかというと、ブロックチェーンを用いたさまざまな新しい事業で活用されている仮想通貨です。

例えばインターネットを介して、スマートフォンで開閉できる「スマートロック」というものがあるのですが、それを開発しているドイツの企業が資金調達に使ったのがこのICOという手法です。将来的に、このサービスを使用するためには、当然、使用料金を支払うことになるのですが、それをお金ではなく、その仕組みの中でしか通用しないコインで支払うというシステムを構築し、そのコイン=仮想通貨を先行して売り出し、開発資金に充当したのです。それをICO、すなわちイニシャル・コイン・オファリングといいますが、これが大成功したのですね。わずか数日間で160億円ほどの調達に成功したのです。これはIPOに代わる新しい金融の仕組みとなる可能性が高いのです。

野口氏は語る「投資を創るような事業を興すことが重要」

地方や都市部、国境などは関係なく投資を創るような事業を興すことこそ重要だと野口氏は語ります。

――先生が先ほどからおっしゃっているような中央だとか仕組みとかを飛び越えて、直接その企業とやりとりしてお金を集めるという手法ですね。消費者は、自分が将来的に“これ使えるな”“欲しいな”というものに先行投資をしておくという感覚ですね。

野口氏:このスマートロックの話だけではなく、さまざまな事業が同じような方法で資金を調達し始めています。すべてブロックチェーンを活用して行う事業です。歴史的に見ると、リスクのある仕事を行うために株式会社が生まれて、企業が資金を調達し発展してきました。ところが現代社会では、ベンチャーキャピタルで最初の資金を調達して、ある程度成長したらIPOになる。この仕組みがGoogleやAppleを育てたわけです。それが今さらに進化しようとしているのです。

――こういった海外の新しい仕組みを勉強して、投資をしていくというのは有効でしょうか?

野口氏:もちろん、それも悪くはないでしょうし、実際に投資をしている日本人もいます。でも、私が言いたいのは、投資をするだけでなく、そういうものを作る側に回るべきだということです。

――こっち側にならなければいけない。

野口氏:そう、こっち側になる。これを買うのは否定はしませんけど。投資をできるような事業をつくることのほうが重要じゃないですかと言いたいわけです。

――先生が先ほどからおっしゃっているように、地方にいても制度とは関係なしに事業を興すことができるというのと同じですね。今やインターネットの時代ですから、国境とか制度といったものを飛び越えて、何でもやれるような仕組みがそろっているじゃないというお話ですよね。

野口氏:そうです。もはや国境なんて関係ない。日本がどうのこうのという話ではないですよ。日本人の投資マインドについて議論をしているようでは、そもそも日本から離れられないという前提で話している。そんな了見の狭いことではダメなんだと、声を大にしてお伝えしたいです。

野口氏のお話より、日本が現在直面している人口減少下での新しいテクノロジーと投資についての考え方を学びました。貯蓄から投資へという言葉をよく聞きますが、実際に投資を創る立場になるという野口氏の言葉はとても胸に響きました。
地方と都市部、日本と海外などの枠をこえ、未来の世界にとって必要なものを創り出せる企業こそ、多くの人から応援され、世界でも有数の企業へ成長していくことでしょう。

野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問・一橋大学名誉教授
1963年東京大学工学部卒業後、 1964年大蔵省(現・財務省)入省。 1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 2011年4月より 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問。一橋大学名誉教授。

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