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野口悠紀雄氏に聞く「人口減少に直面する日本に新テクノロジーが与える影響とは」前編

2025年には、先進国ではこれまで経験したことのないような高齢化と人口減少社会に直面することになる日本。人口減少は大きくこれからの日本経済に影響を与えるものと考えられます。AIやFinTechなどのテクノロジーがこれからの日本の直面する課題を解決できる可能性はあるのでしょうか。

1980年『財政危機の構造』でサントリー学芸賞、1992(平成4)年『バブルの経済学』で吉野作造賞を受賞、『「超」整理法』『「超」勉強法』など数々のベストセラーでも知られる。最新刊に新潮選書『世界史を創ったビジネスモデル』。など、数多くの執筆をされている早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏にお聞きしました。(このインタビューは2017年7月7日に行われました。)

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労働力減少に直面している日本

将来日本の人口は減少し続け、2020年では1億2千万、2045年には1億人強まで減少すると予測されています。少子高齢化時代を迎えている日本において、心配なのは人手不足です。今後の日本は不安に包まれています。

――果たして、労働力人口がこのまま減少し、人手不足が続くと日本の経済はどうなっていくのでしょうか。先生のご見解をお聞かせいただければと思います。

野口氏:日本の人口が減少していることは事実ですが、それは非常に緩慢な変化であって、年間1%以下の変化です。通常、経済的な現象を考えるときに、その程度の変化というのはほとんど無視するようなレベルです。ですから人口の減少自体はそれほど重要なことではありません。総人口減少というより、労働力人口の減少を問題視すべきでしょう。人口の年齢別構成が変化して高齢者が増加し、15歳から64歳の若年層、いわゆる“生産年齢人口”が減少することが問題なのです。つまり人手不足ですね。

今、失業率が低くなっているとか、求人倍率が改善しているということから、経済が改善されているなどと言う人がいるのですが、それは間違い。労働力に対する需要の増加もありますが、ほとんどが供給の減少によります。若年層の減少によって人手不足が深刻化しているだけのことで、現在起こっている有効求人倍率の上昇や失業率の低下は、決して喜ぶべき事態ではありません。

これが続くと日本経済がどうなるか。これはいままで世界のどこの国も経験したことのなかった非常に深刻な問題になっていくことが予測されます。

労働力人口が非常に大きく減る一方で、医療・介護分野における人材需要は急激に増えていきます。つまり供給が減って、需要についてはその分野で増えるわけですから、日本の労働力のほとんどが医療と介護に使われてしまい、他の産業に回らなくなってしまう。そんな経済など維持できるわけがないのです。そういう意味では非常に深刻な問題です。

AIは労働力を補完できるのか

最近では、毎日のようにAIについての報道がなされています。AIは労働力人口減少下の日本において、新たな労働力としても注目されています。

――減少する人口と労働力人口の代替として、AIはその役割を担えるのでしょうか。AIは人間の完全代替として労働力になるのか、それともあくまでも人間のサポートをするものとして労働生産力向上に貢献していくのか。先生の見解をお聞かせください。

野口氏:AIは人間の労働をある程度代替するようになります。AIだけではなく、もう1つ重要な要素としてブロックチェーンがあります。ブロックチェーンというのは仮想通貨の基礎となっている技術ですが、ブロックチェーンを用いることで、管理者なしに事業運営できています。つまりAIは主として労働力の代替をするのですが、ブロックチェーンは管理者を代替するのです。ただし、それらの存在は、むしろ破壊者としてとらえられるでしょう。我々の仕事を奪っていく存在として。ですから、AIやブロックチェーンは人間をサポートし、労働力や生産性の向上に寄与してはいきますが、一般の人々の受け入れ方はそう単純なものではないでしょう。

私はそういったAIやブロックチェーンの進展にもかかわらず、人間がやるべき仕事は残ると思っていて、そのような仕事はむしろAIやブロックチェーンによって価値があがると思います。そういう仕事は何か?ということを見つけ出していくことが重要ですね。それは、今はっきりとはわからないのですが、1人1人がそういうものを今後、見つけていくことが大変重要だと思います。

――その人間がやるべき仕事というのは、なにか先生の中のイメージとして、こういうものではないか?というものはございませんか。我々が、それを見つけていくヒントみたいなものをいただけるとありがたいです。

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野口氏:私がよく例にあげるのは、オーナーシェフがやっている小さなレストランですね。彼らまたは彼女らの仕事は、ひとつは料理をつくるという、労働者としての仕事ですね。もうひとつ、管理者・経営者としての仕事もやっています。人を雇ったり材料を買ったり値段を交渉したり、それから代金を集めて集計して税金を払ったり。そういった管理者としての仕事はブロックチェーンによって代替できる。
だから、純粋に労働者としての仕事が残され、それに集中できるようになります。料理を作るという仕事に特化できるようになるわけですね。料理を作るという労働はAIで代替できるかというと、できるかもしれないけれども、多分それを良しとしない人がたくさんいるでしょう。だから彼の仕事、料理をつくるという仕事が、AI・ブロックチェーンによって価値が上がるのです。同じようなケースはいくつもあると思います。例えば家具をつくるという仕事では、手作り家具は残るでしょうけれど、量産的な家具はロボットが作るようになる。そういうものはいろいろな分野でみられるでしょう。それを見つけていくのは自分自身なのです。

――感覚としては、すごく昔の日本に戻るというか、大量生産がはじまるもっと以前の日本に戻るような……。

野口氏:産業革命以前の社会に戻るのです。非常に大きな変革ですね。製造業のように、人々が同じところに集まって、きちんとしたルールに従って仕事をする、そういう社会が産業革命以降、今までついこの間まで続いていた。しかし、今、世界をリードする産業は、そういった産業ではなくなってきています。それが将来、さらにAIやブロックチェーンによってどのように変わっていくのかということが、我々の目前にある問題です。

FinTechなどのテクノロジーは都市と地方のギャップを埋めるのか

都市部に人口が集中し、都市部と地方の経済格差が生まれていますが、FinTechなどのテクノロジーがその差を埋めてくれるのではないかと期待されています。

――人口減少と比例するように、都市部に人口が集中することで、地方と都市との経済格差が生まれているという問題があります。今後も、さらにそれは拡大していくと予想されていますが、FinTechなど新しい技術でそのギャップは埋められるのでしょうか。

野口氏:それはないと思います。これは技術の問題ではないのです。行政や政治の問題だと思います。日本の場合に、なぜ地方都市が発展しないのかといえば、地方都市が中央に依存しすぎているからです。それは日本の財政構造上の問題です。つまり大部分の税源が中央政府、国によって集められて、そこから交付税や補助金というかたちで地方に配られるような構造になっています。地方にとって大切なのは、そういう補助金や交付金をいかにして受け取るか、そこに意識が働いているから発展しない。

このような制度や考え方が続く限り、日本の地方に未来はありません。アメリカと比較してみてください。先ほど新しいテクノロジーについてお話をしましたが、そういうものが生まれてきたのはアメリカのシリコンバレーです。シリコンバレーは、カリフォルニア州のサンフランシスコの南にある地方都市ですよ。そういう場所から出発し、成長した産業がいまアメリカをリードし、世界をリードしているね。ですから地方だからできないという話ではない。しかもシリコンバレーの産業はアメリカ政府の補助をいっさい受けていません。

――そういった流れは、日本では生まれづらいのでしょうか?

野口氏:今のままでは、絶対に生まれないですね。しかし、日本人は、元々、そういうマインドを持っていたのではありません。例えば、江戸時代の日本は地方分権的な社会でした。すべては戦時中に変わったのです。私はそれを「戦時経済体制」「1940年代体制」と呼んでいるのですが、先ほど財源が国に集中し、それを地方に配るかたちになっているといいました。その仕組みができあがったのが1940年代です。あの頃に財政改革が行われて、法人税が作られました。それまでの間接税に依存していた財政構造がそこで大きく変わったのです。地方交付税もそこで作られました。そこからなにも変わっていない。

――では、私たちは、この先、こういう世の中だから、こういう社会構造だから仕方がないと、生きていくしかないのでしょうか。

野口氏:地方の街に住んでいるから何もできないということはありません。ITさえあれば、どこにいたって何でもできる。場所に制約されない。だから地方にいても、先ほどのシリコンバレーと同じように新しい事業を始めるということは、十分に可能です。政府から補助金をもらおうとか、そういうこととは無関係に、自分で何かやってみようという人がどんどん現れてくれば、地方都市は変わっていくでしょう。

もちろん、いまでも、そういうものが皆無ではないです。独自の仕事をやろうとしている地方発信の企業がいくつも誕生しています。ところが、まだ、そういった動きが経済を動かすまでには至っていないということでしょう。

>>野口悠紀雄氏に聞く「人口減少社会に直面する日本」後編に続く

野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問・一橋大学名誉教授
1963年東京大学工学部卒業後、 1964年大蔵省(現・財務省)入省。 1972年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。 2011年4月より 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問。一橋大学名誉教授。

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