相次ぐテロ事件に揺れるイギリスでは2017年6月8日、総選挙(下院選挙)が行われました。
メイ首相率いる与党の保守党は、議席を12議席減らして過半数割れという結果に。過半数には326議席必要なところ318議席しか獲得できませんでした。
また、対する野党第1党の労働党は33議席増やして262議席になったものの、いずれの政党も過半数に届かない「ハングパーラメント(宙づり状態)」になってしまいました。
なぜ、メイ首相は苦戦したのでしょうか。
そして今、イギリス国内では何が起こっているのでしょうか?
ネガティブなサプライズ メイ首相の誤算
今回、メイ首相はEUからの強硬離脱(ハード・ブレグジット)への交渉に向けて政権基盤を固めようと、前倒しで総選挙を行うことにしました。
当初、与党・保守党は5割近い支持を集めており、選挙で圧勝するのではないかといわれていましたが、公約で「高齢者介護費用の本人負担増大」を提案したことで有権者からは「認知症税だ」と大きな反発がおこり、支持率が急落してしまいました。
選挙の結果は、保守党、労働党ともに過半数に届かず、市場にとってネガティブ・サプライズとなったことで、同日の英ポンドはドルや円など、他の通貨に対して急落しています。
また、政権基盤を固める“賭け”のつもりが、逆に求心力を失う結果となってしまったメイ首相に対して「辞任するのではないか?」という観測が高まったこと、今後のEU離脱交渉の行方がより不透明になってしまったことがポンドの重しとなりました。
「辞めない」メイ首相の決意 ポンドも下げ止まる
同日夕方、メイ首相は辞任する意向はないと一部で報道されました。そして、友好関係にあるとされる北アイルランドのプロテスタント系民主統一党(DUP)の協力を得て組閣を行うと表明しました。
DUPが持っている議席は10議席なので、与党・保守党の318議席と合わせれば328議席となり、なんとか過半数を死守することができます。
また、メイ首相は6月19日に開始が予定されているEU離脱交渉も予定通り進める考えを示しており、目先の政局混乱に対する警戒感やEU離脱交渉についての不透明感が後退しました。
為替市場はそれに反応する形でポンドが下げ止まり、対ドルで1ポンド=1.27ドル台中心でもみ合いとなり、対円でも一時1ポンド=141円台まで買い戻されるなど、下げ渋る展開となりました。
欧米の不安要素は一巡? 今後の為替見通しは
イギリス総選挙に先立ってアメリカではトランプ大統領の“ロシアゲート問題”に関してコミー前FBI長官の公聴会が行われました。トランプ大統領の司法妨害に関する疑惑は残ったものの、決定的な証拠が出なかったことでリスク回避の動きが後退、ドル高となりました。
イギリス・アメリカの政局不安が減ったことで、市場の関心は欧米の政治リスクから今後はアメリカの景気動向やFRBの利上げペースなどに関心が移っていくとみられています。
今後のドル円相場に影響するものとしては
・ 「トランプ大統領が税制改革や景気刺激策に関して一定の成果をあげることができるか」
・ 「米国経済の緩やかな回復傾向とFRBによる米国の利上げペースが維持されるか」
・ 「日銀による金融緩和が継続されるか」
・ 「欧州政治リスクが後退するか」
などで、7月にかけて1ドル~109円~114円、年末にかけては115円~120円の“円安ドル高”方向へ動いていく展開が予想されています。
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