Home / インタビュー / 岩村充教授に聞く「ビットコインの価値と今後の動き」後編

岩村充教授に聞く「ビットコインの価値と今後の動き」後編

岩村充教授,ビットコイン

代表的な仮想通貨であるビットコインをめぐる環境が急激に変化しています。この先、どのような事態が起こる可能性があるのでしょうか。そして、私たちはどのように対処するのがよいのでしょうか。前回に引き続き、早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授にお聞きしました。(このインタビューは2017年7月11日に行われました)
>>岩村充教授に聞く「ビットコインの価値と今後の動き」前編はこちら

直近のビットコイン価格が上昇している理由とは

仮想通貨全般が注目を集めていますが、やはり大きな存在はビットコインでしょう。

――去年との比較だけでもビットコイン価格は大きく上昇していて、加熱しているように感じます。先生は直近のビットコインの値動きについてどのようにお考えでしょうか。

岩村氏:今回の価格の動きはイーサリアムやモナコインなどの価格上昇と同時に起きています。これは価値を作り出す構造が似ているという意味で納得できる動きなのですが、奇妙に感じるのはリップルの仮想通貨であるXRPも価格が上がったことです。XRPはマイニングによって作られるものではありませんから、こうした仮想通貨まで同時的に価格が上がるということは、背後にバブル的な期待の連鎖があるのではないかと考える理由になります。性質が違うものであってもすべて仮想通貨というくくりで捉えられて議論されることの問題ともいえるでしょう。そうしたくくり方をされていると、仮想通貨と呼ばれるものすべてが連想から突然下落する可能性もあるわけです。ビットコインの仕組みをよく理解しないまま、みんなが買うからという理由だけで手を出すのは控えた方が良いと思います。

――“よくわからないものに手を出したら駄目だよね”ということに、みんなが気づいた途端に価格が急落する可能性もゼロではないということでしょうか。

岩村氏:そうですね。たとえばイーサリアム上のICOのようなプロジェクトへの不信が原因で、イーサリアム自体の欠陥ではないのにイーサリアム上の通貨が値崩れしたり、その連想から仮想通貨というカテゴリーでくくられたビットコインなどまで急落したりする可能性も否定はできません。わからないままで手を出す人が増えると、そういうことが起こりがちになります。それは、仮想通貨にとっても、世の中全体にとっても、良いことではありません。

ビットコインの不確実性

ビットコインは支払いにも使えるなど、便利な点もあるようです。日本でも徐々に決済手段として使われる場所が増えてきています。ところで、去年イーサリアムが2つに分裂したように、ブロックチェーンの分裂つまり“フォーク”はビットコインでも起きるのでしょうか。それが2017年8月に起こりそうだということも報道されていますが、どうなるのでしょう。

――ビットコインがもしフォークしたら、どのようになるとお考えでしょうか。

岩村氏:フォーク自体は、それが正確に理解されていてのことなら、仮想通貨の価値に悪影響を与えるものではありません。実際、昨年にはイーサリアムもブロックチェーンの枝分かれを起こして二つの通貨に分かれましたが、それで特に大きな問題は発生しませんでした。フォークしたときに何が起こるかと言えば、少なくとも分裂した時には損も得も発生しません。例えばフォーク前に1BTCが2,000ドルで、それがビットコインAとBとに分裂したら、たとえばAが1,500ドルならBは500ドルだが、もしAが700ドルならBは1,300ドルといった具合に分かれるだけのことです。要するに株式分割と同じですから、2つになっても3つになっても総額は変わらないはずです。たとえば両方のBTCを同じ量だけ保有し続けていれば、どんなに市場が揺れ動いても、それ自体では損も得もありません。

――なるほど。ただ、ビットコインがフォークすると、価格も大きく変動するようになるかもしれないという話も聞きます。やはりフォークなどない方が良いのではないでしょうか。

岩村氏:そうでもありません。報道されているような経緯でビットコインが分裂するとしたら、私は、むしろ健全なことだと思っています。ビットコインの分裂が予想されるようになったのは、ビットコインのスケーラビリティとして以前から指摘されていた問題の解決方法として、手堅さを重視していると思われるグループと、実務的な発展可能性を重視するらしいグループとの間で、大きく2つの方向が提案されていて、それがまとまりそうもないからです。ただ、説明したように、分裂自体はビットコインの保有者の損得になるものではないのですから、2つの考え方が存在するのなら、各々の考え方に賛同する人たちが各々に付けば良いだけのことで、考え方の違う人たちが無理にまとまる必要はないでしょう。無理にまとまろうとするよりは、互いに違うものだと認識して別々に発展した方が素直だし、長期的にはうまく行くと思います。

もちろん、そうしてビットコインAとBというような「2つのビットコイン」が生まれると、AとBの間ではマイナーも投資家も簡単に移動できるようになるので、Aが急落するとBが急騰したり、その逆になったりというようなことは起こりやすくなるかもしれません。ただ、ブロックチェーンの在り方についての大きなポリシーの違いが理由の分裂が起こるのだとしたら、やがてAとBは完全な別物と認識されるようになるでしょうから、そうした不安定性も落ち着くところに落ち着くのではないでしょうか。

マウント・ゴックス事件とフォークの違い

――いわゆる、マウント・ゴックス事件と、今回、発生する可能性があるといわれるフォークの違いはどのようなものでしょうか?

岩村氏:マウント・ゴックス事件と今回のフォークとは、まったく別のものです。2014年のマウント・ゴックス事件の際には、それが、金庫の中の現金が無くなっていたというような「事件」であること、刑事訴追の対象になるような「事件」であること、そこは明らかでしたし、それを当時のビットコイン保有者の多くが理解できたので問題が大きくなりませんでした。あえて言えば、ビットコインがちゃんとした通貨であること、盗まれれば無くなる通貨であることが現実に証明されたようなものです。

しかし、今のビットコインのフォークについてのビットコイン保有者たちの理解には、不十分なところが多いように思えます。それが不十分なままでフォークが起こってしまうと、そもそも価格に不安定要因が大きいビットコインには何が起こるかわからない面があります。ビットコインは完全に自己責任のシステムのはずですが、そうと思っていない人たちが数多く参加してしまっているのが今のビットコインの市場だとしたら、状況はかなり危ういかもしれません。

岩村充教授から2回にわたり、お話をお聞きしました。ビットコインを始めとする仮想通貨の内容をよく理解したうえで保有をすることが大切だと感じました。もしかしたら中身をよく理解しないまま仮想通貨を保有している人もいるかもしれません。

金融商品は投資をする前に投資商品の内容を理解したうえで、最終的にご自身の判断で投資をするように言われますが、仮想通貨も価格が変動する分、同じことが言えるのではないでしょうか。今後の様相を注意しながら、どのような対応をとるのかを考えて行動しましょう。

岩村 充(いわむら・みつる)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
1974年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。営業局、総務局、ニューヨーク駐在員を経て、日本公社債研究所開発室長。日本銀行金融研究所研究第2課長、日本銀行企画局兼信用機構局参事。
1998年より早稲田大学大学院教授。国際会計基準委員 会委員や政府の各種委員会の座長や委員を歴任。博士(早稲田大学)

【おすすめ記事】
いろいろある仮想通貨・暗号通貨の種類とは
【フィンテック 】世界を変える「ブロックチェーン」
【フィンテック】変わる今後の送金サービス
新市場に商機を見いだす、ITサービス業界のトレンド
キャッシュレス社会へ 電子決済の普及で変わりゆくお金のかたち